NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第33章 道路公団「失敗隠し」の構図
 小泉内閣が進める構造改革の柱の一つ、特殊法人改革は、国の特別会計にぶら下がる「官業」の改革、と言い換えることができる。日本道路公団(JH)は、全部で77ある特殊法人の中で、事業規模、国費(税金)投入規模や借金の巨額さ、国民生活への影響などからみて、その代表格といえる。
 しかし、同公団の事業実態は情報公開が十分されていないため、不透明であるばかりか、公団は四つの手法によって事業の失敗などを隠蔽している。その手法とは、1.財務会計で「減価償却」を行っていない、2. 破損などで取り替えられた資産の「除却」を行っていない、3. 全国の高速道路を一本とみなす
「全国プール制」の採用、4. 建設計画の操作、である。

資産は過大、経費は過小に計上

 道路公団は、企業会計とは異なる財務会計手法「償還準備金積立方式」を採用している。この手法が以下にみるように、相当に悪い経営実態を覆い隠している。なぜ、公団はこのような財務会計を行っているのか。
 出発点は、87年6月に閣議決定された「第四次全国総合開発計画」(四全総)に遡る。21世紀初頭には、全国の都市・農村から概ね一時間以内で高速道路にアクセス可能にするため、1万4000キロメーターの高規格幹線道路網を完成させるという計画だ。その骨格を成すのが、全国1万1520キロの高速道路ネットワークで、この建設・管理事業をJHが担った。
 だが、その巨額の建設投資額を賄うため、借入金と国からの国費投入に頼り、料金収入でこれを償還(返済)していく有料道路事業システムが採用された。
 この観点から、建設に要した借入金などの現状と返済状況が一目でわかる会計方式(償還準備金積立方式)が導入される。民間企業と異なる会計処理になったことに対し、公団側は、1. 収支差は道路への投下資本(借入金)の償還(償還期間は現在35〜50年に設定)に充てられ、利益は発生せず、税金も支払わないこと、2. 借入金の償還が完了すれば、道路は国に移管されること、
を理由に挙げる。

 ともあれ、そのJH方式では民間の企業会計にある「減価償却」「除却」(破損などで資産価値がなくなった場合の帳簿からの消去)の勘定項目はなく、これに相当するものはすべて「償還準備金」に盛り込まれる。
 つまり、損益計算書(P/L)では企業会計だと仮に「減価償却費4000億円」「除却費2000億円」と計上されるものが、ひっくるめて「償還準備金繰入6000億円」と、ドンブリ勘定で表示されるわけである。
 また貸借対照表(B/S)でも、民間企業方式では「減価償却」「除却」が行われ、その分「自己資本」が減るはずなのに、「償還準備金」の中にこれらがいっしょくたに詰め込まれる。
 結果、JH会計では「資産は実態より過大」に計上され、逆に「経費は実態より過小」に計上されることになる。同時に、大ドンブリとなる「償還準備金」は実態よりも異常に膨らむ。したがって、公団が99年度の高速道路の収支率が「50」に改善された(前年度は「59」)と胸を張っても、会計処理法からみて疑念を拭えない。

 公団の2000年3月期決算によれば、債務累計約27兆円に対し、道路などの固定資産は約37兆円。一見すると余裕がありそうだが、「道路資産(約32兆円)」の勘定科目には民間企業会計で扱われる減価償却費と除却費が含まれているから、これを差し引けば道路資産は急減し、自己資本もその分減る。当期利益(6億7600万円)を出すどころか実際は大赤字で、既に債務超過状況に陥っている可能性が高い。
 公団が、減価償却と除却処理を行わず、各年度の収支差を「償還準備金繰入」としてP/Lの費用に、その累計額を「償還準備金」としてB/Sの負債にそれぞれ計上する「償還準備金積立方式」を採用したのは、87年からだ。これ以前は「道路減価償却費」の勘定科目があった。それが民間企業会計とJHとは違う、との理由から改悪されてしまった。つまり、官業の論理が道路の補修・メンテナンスを重視する民間型手法を葬ったのである。
 財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の特殊法人等の会計処理の見直しを踏まえ、ことし9月末には現行の財務諸表に添付する形で、民間企業並みに道路資産についての減価償却や除却処理した財務諸表と、国民負担の程度を示す行政コスト計算書の作成が義務付けられる。会計の透明性に向け、遅ればせながら一歩前進する形だが、なぜもっと早く出来なかったのか。

プール制の欺まん

 事業の失敗を隠蔽している三つめの手法が、72年から採用された高速道路事業の収支を全体でとらえる全国プール制だ。現在は(第12次)新道路整備5カ年計画(98年5月閣議決定)の4年目に入り、毎年200キロ前後延ばしている道路整備計画は、政策変更がなければ2002年度まで続行される。
 小泉内閣が道路特定財源を今後、一般財源化するなどしてその使途を道路以外に向けなければ、財源消化のため高速道路建設は以後も延々と続くことになる。そうなれば、プール制をとっているから、現在の計画なら50年後の2051年度に借金の償還を完了するはずが、新たな高速道路建設が続く限り、プールが拡大して償還期間も先に延び続ける。
 プール制が採算の悪い路線を隠し、個別路線の収支をわからなくする「隠蔽のスキーム」になるばかりでない。同時に、それは借金の返済を新規道路建設を付け加えながら先に延ばす「先送りのスキーム」ともなる。結果、国民の料金負担はいつまでも続き、永遠に終わることがない。

 国は、公団の有料道路事業については建設投資額の回収(借入金の償還)を終えると同時に無料開放し、道路資産を国などに引き渡す、としているが、高速道路に関する限りこのままでは夢物語だ。
 プール制は、国民に対する壮大な欺まんである。そのごまかしのカラクリは、新しい道路建設の失敗を黒字路線の好業績に紛れ込ませることで隠蔽し、これを繰り返すことで、いずれは国民負担となるはずの「事業の失敗」を隠し続けられることだ。
 プール制悪用の一例が、赤字が最悪の一般有料道路、東京湾アクアライン。一般有料道路は高速道路と異なり、個別路線ごとに収支を計算する。当初、アクアラインも個別採算制をとっていたが、収支があまりにも悪化(経費が収入の3倍強)したため、2000年夏、アクアライン、アクアライン連絡道および新たに事業化する木更津と東金間を「東京湾横断・木更津東金道路」として黒字路線の京葉道路・千葉東金道路に加えた新たな「千葉プール」をつくった。事業の失敗を見えにくくし、償還期間を10年延長して50年に先送りしたのである。

計画の操作による失敗の隠蔽

 最後に、道路公団が道路整備計画を都合のいいように操作して道路建設を思いのままに進める隠蔽・改ざん工作の驚くべき実態を明らかにしよう。
 公団の内部資料によれば、整備計画決定時で路線の「終点」を偽り、旧建設\省から公団に対して出された施行命令では終点が先に延びて道路が数十キロも延長され、事業費を膨らますでたらめぶりが、少なくとも四路線で確認された。東北中央道の場合、96年12月に開催された第30回国土開発幹線自動車道建設審議会(国幹審)で国土開発幹線自動車道の基本整備計画を決めた際は、整備区間は山形県東根市から村山市までとされた。
 ところが、施行命令時には終点を村山市から15キロ先の尾花沢市に変更し、事業費が1060億円に、実に47%、340億円相当増えている。つまり、計画段階では1000億円の大台に乗せないようにするためか、低めに見積もって出しておいて、実際には路線を延ばして事業費を膨らませたのである。
 このほか終点こそ変えていないが、整備計画で延長や事業費を過小に見積もり、施行命令時に膨らました路線も12確認された。さらに、施行命令で端末インターチェンジを延ばしたり拡幅して事業費を膨らましたケースも17路線あった。

 こうした国民を欺く「計画操作」は、どうやら公団の常套手段のようだ。というのも、藤井治芳・日本道路公団総裁自身、今年2月23日の衆院国土交通委員会で、第二東名・第二名神の事業費について当初整備計画事業費の総額を1兆円以上も上回る9兆5000億円、と野党議員の質問に答弁しているからだ。事業費が膨らんだことに対してチェックした当然の結果であるかのように、藤井総裁はこのとき、こう続けている。
 「この推計は、私どももやりますが、この計画そのものが、もともと国土開発幹線自動車道計画の整備計画のときに全体の償還計画をチェックし、そして施行命令を出すときにチェックし、そして概算要求するごとにチェックをしてやってきております。そのときに使われる一つの数字でございます」
 「チェック」という名の公団のでたらめな計画操作ぶりが、この答弁に臆面もなく表れているではないか。
 関係者によれば、「計画の操作」はしかし、こうした「見直し」の折りだけでない。そもそも収入計画を作成する際にも行われる。それは、計画の初期段階に収入予測をわざと低めに設定する「操作」である。
 こうすると、実際の収入が低くても計画通り「事業は順調」と評価され、批判を浴びずに済む。低く見積もっておいて数年間事業の好調さを演出すれば、次の「見直し」で新しい計画をつくってそれまでのごまかしを隠蔽しつつ事業拡大を行える。公団は実に計画の作成と見直し時に、これを平然と操作しているのである。

 7月9日、内閣府から道路公団あてに高速道路・一般有料道路の建設と管理事業のあり方について関係省庁と協議に入るための「担当者レベルの叩き台」と記した文書が届いた。この中で、肝心の建設中の事業の凍結や新規事業のストップといった改革に直結する案件は、「P(ペンディング)扱い」となった。確定事項とされる項目には「維持管理のあり方の見直し」といった改革の先送り文言が並ぶ。
 市場と株主と議会のチェックなき道路公団は、事業拡大一途の無責任軌道を走り続ける。このままでは事業の破綻が表面化したとき、誰も責任を取らずに国民のカネだけが注ぎ込まれた旧国鉄債務処理の二の舞になることは必至だ。
 公団は果たして第二の国鉄になるのか?負債の対利益比、自己資本比率などからみる限り、その数字は赤字前年の国鉄(63年当時)よりも相当に悪い。負債に「償還準備金」が加わっていることも要因の一つではあるが、基本的には負債が途方もなく巨額なせいである。
 高速道路事業をどうするのか、建設の中止と公団の民営化に向け、小泉内閣は早急に決断しなければならない。


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