■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第30章 主務官庁制を廃止せよ
公益法人問題をここで総括してみよう。これまで追跡してきた問題法人は、以下のように類型化できる。このほかに今回取り上げる問題ケースとして、
- 国(一般会計、特別会計)から多額の補助金・委託費の交付を受け、それらを大学や研究機関などに再交付したり(いわゆるトンネル法人)、補助金・委託費で自らの収入の大部分を賄っている(いわゆる丸抱え法人)。
- 国の事務・実務を法的根拠によらずに独占事業の形で補助・補完している。
- 各省庁の事務に関連してそのシンクタンクとなり、調査研究活動を通じて本省を外部から補佐している。
- 特殊法人の事務・実務を補助・補完している。
- 特殊法人が設けた保養所などの施設の管理・運営を行う。
- 国家資格の試験や講習に関する事務を国から指定を受けて実施する。
- 公益法人の付与する資格を国が認定する(お墨付きを与える)。
がある。結果、問題法人は、おおむね10のカテゴリーに分けられよう。
- 国が定めた基準に適合しているかどうかの検査、検定、認定などを国から指定を受けて行う。
- 国の職員の互助会、共済会が公益法人となっている。
- 上記以外の、行政により委託された特権型事業。
8、9、10の問題ケースを要約しておこう。
日本規格協会
国の「検査」「検定」「認定」を実施する指定法人の代表格に、経済産業省所管の財団法人「日本規格協会」がある。戦後まもない45年12月の設立。JIS(日本工業規格)の普及事業で知られる。工業標準化法に基づき旧・通産省から指定を受け、JISマーク表示認定工場に対する「公示検査業務」と「JISマークの認定業務」を行う。
つまり、「指定検査機関」であると同時に、「指定認定機関」でもある。公示検査機関数はことし1月時点で、全部で17機関、指定認定機関数は計3機関あるが、この中核に同財団が位置する。
国からの委託費は、2000年度計画ベースで9億7200万円。国際規格の共同開発なども委託事業に含まれる。財団のホームページにも委託事業の委託先などを示す一覧表が掲載され、全体像がわかる。
ところが「補助金」となると、同財団の口は堅くなる。99年度の「補助金等受託収入」は14億8700万円。
補助金の存在自体、筆者は財団の収支計算書をみせてもらうまでは、てっきりないものと思っていた。それまで広報室は質問に対し「補助金は貰っていない」と明言していたからだ。確かに「国から」は貰っていなかったが、いくつもの特殊法人や公益法人から受け取っていたのだ。 のちに明らかになったところでは、九九年度の補助金の主な出し手は、次の通りである。
特殊法人・日本自転車振興会
特殊法人・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
公益法人・日本機械工業連合会
特殊法人・国際協力事業団(JICA)
この4法人の3つまでが特殊法人、1つが公益法人である。
日本規格協会は、「補助金等受託収入」をこのほかにも「ロシア東欧貿易協会」「国連開発機構」「海外貿易開発協会」「国連開発計画」「宇宙開発事業団」などから受け取っている。ところが、これらの記述は、ホームページにも会社案内パンフレットにも一切ない。
同財団は、これらの補助金を国際標準化事業や調査研究に使ったというが、説明が明確でない(99年度の当期収支は2億円余りの黒字)。
特殊法人は政府系機関として、どれも国から補助金などの形で公的資金を受け取っている。したがって、特殊法人から得る「補助金」の一切は、公的資金にほかならず、同財団はこの資金の金額、性格、使途などを情報公開するのがスジだが、していない。
同財団の役員のうち常勤は理事長、専務理事、理事4人と監事1人の計7人。うち通産OBの常勤役員は4人で、トップ2人の最終官職は板倉省吾・理事長が元大臣官房審議官、斎藤紘一・専務理事が元環境庁長官官房審議官。
郵政弘済会
公益法人白書(2000年度版)によれば、2万6000余りある公益法人のうち、14%の3692法人が「その事業目的が公益というより共益(構成員相互の利益を図る)と考えられる」互助・共済団体等に分類されている。
この種の、そもそも公益法人として適当でない団体の一つに、財団法人「郵政弘済会」がある。旧・郵政省から独占的に請け負った郵便局の清掃などを子会社に丸投げして法外な収入を得ていることで知られるが、その実態は情報公開されていない。
しかし、同清掃作業や郵便局向けパソコン、コピー機、机、金庫、伝票類などの備品購入の受託収益事業が、いかに財団に収益をもたらしているか、は決算数字に示されている。2000年度(99年10月〜2000年9月)の当期収入は、支出を1億6000万円超上回る786億5184万円。職員数は352人だから、単純計算すると一人当たりざっと2億2300万円の収入を上げていることになる。
これを企業と比較すると、ソニー(単独)の一人あたり売上額(1億3500万円=2000年3月期)を1.7倍近くも上回る驚くべき高収入体質だ。うち「収益事業」収入は、358億1419万円と計上されている。
この収入源に、子会社への丸投げから得た約60億円の郵便局の清掃収入が含まれる。その子会社の一つは、財団が株式を保有していた「とうび(旧名・東京郵弘)」という無名の企業。こういう子会社のトップに郵政OBが天下っていることは、いうまでもない。
公益法人の指導監督基準により、公益法人は原則として営利企業の株式保有を禁じられ、99年9月末までに保有株式の処分が義務付けられた。結果、郵政弘済会は旧・東京郵弘のほか、郵便局の内装や設備工事を手掛ける「新興機材」という企業の保有株も手放した。しかし、郵政省のファミリー企業に保有株を引き取らせたことで、郵政ファミリーが依然、天下り先の系列企業を実質支配している構図だ。
財団の常勤役員6人のうち5人までが郵政省出身者(うち2人は全逓信労組と全日本郵政労組出身)。常勤の会長は元郵政省官房国際部長、常勤理事2人は東京と大阪の元中央郵便局長。監事2人は、同財団出身者と全逓労組出身者。身内で固めているから監視機能はないも同然だ。
こういう法人は、本来の「公益法人」から逸脱している、として法務省は「公益」でも「営利」でもない団体に別途新設する「中間法人」の法人格を与える「中間法人法案」をこの3月の通常国会に提出した。だが、郵政弘済会の設立は1952年にさかのぼるから、ほぼ半世紀もこうした「官益」法人の問題が放置されていたことになる。
しかも、この中間法人案も当初試案にあった公益法人から中間法人に移行するための組織変更規定が自民党の反対から削除されてしまった。
国民休暇村
設立許可を持つ「官」が、自らの特権を利用してつくった公益法人の典型例に、環境省所管の財団法人「国民休暇村協会」がある。環境庁設置(71年7月)以前の61年12月、「国民の自然公園利用と保健休養」を目的に厚生省の主導で設立されている。
国立公園・国定公園の地域内に宿泊・リクリエーション施設をつくり、「低廉な料金」で国民の利用に供する、というのが事業目的だった。設立当時、年金福祉事業団の設立と時を同じくしていたため、厚生省部内で「事業団は特殊法人で、休暇村は財団法人でいこう」という話になり、具体化に向かう。
双方のプランの根底には、国民の年金積立金を財源にしよう、という発想があった。同財団の場合、年金福祉事業団から年金資金を原資にした融資を受け、国や県から無償か極めて安く土地を借りて施設づくりに乗り出す。事業団が経営する大規模年金保養基地「グリーンピア」を同業としてうらやましい思いでみていた、と同財団幹部は述懐する。
休暇村は現在、全国に36施設。基準料金は一泊二食で8500円。
公園行政を担当する環境省の指定する「特別地域」に施設づくりが次々に認められ、しかも料金は低廉とあって、民間旅館業者は当然、反発を強める。例えば、休暇村「陸中宮古(岩手県)」の場合、「和室Tタイプ」で「四名利用」の部屋なら大人の室料は一人当たりわずか3500円、「二人利用」で同4500円。サービス料はつかない。
「ふるさと自慢」の産品を全国の休暇村から届け先まで配送する「Qパック」と呼ぶサービスもある。
公的宿泊施設の中には、コンパニオン入りの宴会を企画しているケースもある。
「特別地域」は環境大臣の許可を得なければ、広告の看板も設置できない規制区域だ。全国旅館三団体(日本観光旅館連盟、国際観光旅館連盟、全国旅館環境衛生同業者組合連合会)がこれまで再三、公的宿泊施設の新増築禁止の閣議決定を迫ったのも、ひしひしと休暇村など“公共の宿”による「民業圧迫」を実感したからである。
同財団は赤字経営(99年度)で、累積欠損を11億円超も抱えるのに、国から助成金は受け取っていない。施設づくりをどうやりくりしているのかというと、事業団からの借り入れのほかに、オートレースや宝くじの収益金から多額の施設建設費が寄贈されているのだ。
99年度には特殊法人・日本小型自動車振興会から3億4000万円弱、財団法人「日本宝くじ協会」から2億1000万円、「車両競技公益資金記念財団」から1400万円余りを贈られている。宝くじ協会を例にとると、発売する宝くじについて「その消化額の二%」に相当する金額を原則的に「公益法人または地方公共団体」に助成金として交付することを決めている。「民業圧迫」を続ける休暇村が累積赤字なのに施設を新増築できるのも、こういうカラクリがあるためだ。
とはいえ、国民休暇村は公的宿泊施設の「氷山の一角」にすぎない。グリーンピアやサンプラザ(旧・労働省所管)以外にも、「ようこそ厚生年金の宿」がキャッチフレーズの「厚生年金会館」や「厚生年金休暇センター」「サンピア」「ハートピア」がある。ほかにも「郵便貯金会館(メルパルク)」「簡保の宿」「農林年金会館」など、枚挙にいとまがない。こうした中で、民間旅館業者の生き残りには大変な苦難が伴うことだろう。
これまでのケース・スタディを通じて、公益法人問題の根源が、各省庁が設立許可と指導監督を行う権限を持つ主務官庁制の弊害と、設立根拠とされる民法34条の欠陥にあることがわかる。一世紀以上も昔の1898(明治31)年に施行されたこの法律には公益性の定義がないうえ、設立の要件として「主務官庁の許可を得ること」が定められている。この制度的欠陥から無数の「官益法人」が生み出されてきた。そこで、問題の抜本解決のためには、何より明治の時代からの主務官庁制の廃止、が中心に据えられねばならないのである。
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