NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第19章 法的根拠なき独占事業で「民」を支配
 インターネットで行政の問題を追及するサイト『行政監視局』に7月20日、公益法人を告発する次のような投書が掲載された。まずは、この紹介から始めよう。

「昭和62年の国会において電波法が改正され、郵政大臣が『電波有効利用促進センター』として指定する公益法人に相談等の業務を行わせることにより、電波の利用者の利便の向上と電波の有効利用の促進を図ることになりました。(電波法第102条17)」と電波産業の手引きに説明されています。
 これだけを見れば何も問題はないように見えますが、問題は相談という名目の手数料にあります。最も高い手数料である周波数選定の場合、地上回線で一区間25万円、衛星回線は一区間28万円になっています。一区間とは二地点間のことで、例えば地上の場合、電波がA→B→C→Dという経路で構成される場合は三区間となり、上記手数料も三倍になります。
 この周波数選定の作業は一人でやったとしても2時間以内で終わるようなものです。現在はパソコンが計算してくれますから簡単なはずです。どうしてこのような手数料になるのか理解に苦しみます」

電波産業会の法外な手数料

 このような相談業務を委託せざるを得ない民間会社は、常識では考えられない法外な手数料を払わなければならなくなる―と投書は告発していた。
 さっそく社団法人「電波産業会」と所管官庁の郵政省に取材した。
 電波産業会は「電波利用の一層の飛躍的な発展を図るため」95年5月に設立され、翌6月には電波法により「電波有効利用促進センター」に指定されている。正確に言えば、同センターの指定を受けるため、前身の財団法人「電波システム開発センター」と放送事業者らがつくる任意法人「放送技術開発協議会」とが合流する形で、電波産業会が新設されたのである。いわば、郵政省と放送事業者の利益が一致したため、電波利用に関する指導・助言などのニーズの爆発的な高まりを見越してつくられたのだ。
 問題の「照会相談業務」は同法人の事業の三本柱の一つ。総収入の四割近くを占め、収入は年間約5億1400万円(98年7月―99年6月)に上る。それは「通信・放送分野における電波の利用に関するコンサルティング」の一環として位置付けられている。
 内容は、同法人の事業案内によれば「無線局免許人などからの照会に応じ、固定マイクロ回線、衛星回線に係る回線設計、既設無線局との混信の計算、使用可能な周波数の検討等の無線回線に係る相談や電波の伝搬障害防止に係る相談に応じる照会相談業務」となっている。
 問題の手数料は、会員の中から「高すぎる」との声が出て、昨年7月に10―20%値下げされた。にもかかわらず、割高感は否めない。なぜ、こんなに高いのか?周波数選定の作業に一体どのくらいの時間がかかるのか?―この疑問に対し電波産業会と郵政省電気通信局側は次のように説明する。
 一回線あたりの作業時間は平均3―4時間(のちに約7時間35分と訂正が入る)。手数料が高いのは膨大なデータベースのための設備投資、コンピューターのハード、ソフト両面の投資、人件費、件数を想定した手数料設定(昨年で衛星回線を含め約二千区間)などを勘案して決められた。件数の多い固定マイクロ波回線を例にとると、97年7月に同手数料を30万円から25万円に、昨年7月には22万円に、さらにことし6月から「状況によっては17万円に値下げしている」という。
 だが、数時間で済む作業にこの手数料では、依頼する側のNTT、NTTドコモ、日本テレコムといった電気通信業者は納得いかないだろう。 同法人が法外な手数料でやってこられたのは、むろん独占事業だからである。郵政省が電波法により、唯一の「電波有効利用促進センター」に指定してきたからだ。郵政省としても、電波行政に絡むだけに「安心できるパートナー」でなければ任せられない、という大義名分もある。
 法律上は、電波産業会に同センターの指定を独占させる、とは書いていない。建前では、指定の申請は自由にできる。しかし、指定の経緯や郵政省との緊密さからみて、他の法人が同様の指定を受ける可能性はない。事実、同センターの指定をほかから申請したケースは、これまでに一件もなかった。初めから可能性のないことがはっきりしているからである。

国が独占事業に指定して利益を追う

 電波産業会は国から補助金は受けていないが、調査委託費を毎年2―3億円受け取っている。この費用で、通信・放送分野での電波利用に関する需要や技術の動向、今後の新しい電波の利用、海外における電波利用の実態調査を手掛ける。
 問題は、この委託費が国民の税金から出されていることと、先の「照会相談業務」のように独占事業をいいことにベラボウな手数料を電気通信事業者や公共業務用マイクロ回線を使う建設・運輸省、警察庁、海上保安庁、地方自治体、電力会社などに押しつける結果、高い通信費となって結局は「ユーザー負担」にはね返ることだ。公益法人の法外な手数料が、外国と比べ著しく高い通信費の一因をつくっていることになる。そして、電波産業会が郵政省に申請する手数料の「料金体系」は、これまですべて申請通り認められているという「一体化」ぶりである。

 しかも、「電波有効利用促進センター」として、電波産業会は通信・放送分野での電波利用システムを巡る「標準規格」の策定まで行う。未来の電波ビジネスに直接影響してくる標準化作業だ。まさに「見えない政府」の典型例といえるだろう。こういう絶大な権限をみて、情報提供や便宜を受けようと、電気通信事業者や放送事業者、機器メーカーなど実に300社以上が電波産業会の会員に加入している(99年10月1日時点で正会員306、賛助会員3)。
 会費は企業規模により年間60万円から最大で600万円もかかる。この会員制に基づく会費収入は、昨年6月末までの一年間で約3億2000万円と、先の「照会相談業務収入」に次ぎ総収入(同期約13億4400万円)の22%を占める。つまり、電波の利用について特権的な地位にある電波産業会は「照会・相談」に対しては手数料、情報提供については「会費」などの形で徴収しているのである。国が特定の公益法人を事実上独占的な国の協力業者に指定して、「国民負担」につながる料金体系をつくらせる、―この問題は郵政省も公益法人側も情報開示を行わないために、関係業者以外には知られることなく続いてきたのである。
 しかも「会員」の放送事業者の中にはNHKも民放も顔を揃えているのに、郵政省とこの一公益法人がもたらす「深い問題」にマスコミは貝のように沈黙してきた。

 電波産業会の役員構成をみると、常勤理事は4人、うち専務理事の古川弘志氏が元郵政省信越電気通信管理局長、常務理事の若尾正義氏が元郵政省研究所主任研究員、もう一人の常務理事がNTT出身、理事がNHK出身だ。文字通り「半官半民」の経営体制である。郵政省をバックアップする形で民間の大手業者が経営に加わった全体主義的な「翼賛体制」型公益法人といってよい。
 この「常勤役員4人」以外は、関係業界トップのそうそうたる顔ぶれが、非常勤の会長、副会長、理事、監事として計24人も加わっている。全職員は80人余りだから、非常勤役員ばかりが異常に多い。
 だが、こういう体裁を整えることで、事業を推進しやすくしたり、立派な公益活動をやっているとの対外的印象を強められるばかりでない。「理事のうち所管する官庁の出身者が占める割合は、理事現在数の三分の一以下とすること」と定めている「公益法人の指導監督基準」(96年9月閣議決定)に数の上から違反しないで済むのだ。
 理由は、この指導監督基準の網をくぐり抜けるには「非常勤理事」を増やせば常勤理事にどれだけ所管官庁から天下りしようと、同基準で定められた「理事数の三分の一以下」の合格ラインをクリアするからだ。大雑把な同基準の欠点を突いて、前回までに紹介した「日本国際教育協会」や「ヒューマンサイエンス振興財団」、次に取り上げる「空港環境整備協会」も、非常勤理事の量産によって、天下りOBの比率を法的基準以下に引き下げている。

法的根拠なしに国の補完事業

 財団法人「空港環境整備協会」(運輸省所管)も、国の事務を補助・補完している点で「見えない政府」を形づくる。事業の柱は、空港周辺の騒音をはじめとする環境対策事業、航空関連の環境調査事業、空港駐車場の運営など。「事業概要」を記したパンフレットには、「国の施策を補完する対策事業です」とうたっている。独立した事業主体である、という気風はまるでみられない。
 日本の航空輸送が急増した67年に「騒音防止法」が制定されたものの深刻化する一方の航空機騒音問題に取り組むため、運輸省と関係者の音頭で翌68年に同協会の前身となる「航空公害防止協会」が設立される。羽田をはじめ航空公害の特にひどい空港を重点的に、テレビに対する電波障害や難聴への対策を実施してきた。93年に名称を「空港環境整備協会」に改め、対策事業も騒音対策から空港周辺の環境対策へと拡充され、公園・緑地の整備、空港周辺の安全対策事業も手掛けるようになる。自主財源確保のため、69年から空港の駐車場運営に着手し、現在では全国23空港で駐車場を運営し、24事務所と羽田の「航空環境研究センター」で騒音や空気汚染などの環境対策を講じている。

 この経緯をみる限り、お国のために助っ人として着実に歩んできた軌道が読みとれる。問題は、同協会の「構造」にある。国の実務の補完事業を法的根拠なしに、事実上独り占めしていることだ。競争がないから補助金や国との個別契約が高めになり、経営も安易になって税金の無駄遣いが多くなる。
『平成11年度公益法人に関する年次報告』(総理府編)によれば、空港環境整備協会は運輸省所管法人の中では唯一、10億円以上の大口補助金ユーザー。97年度決算ベースで計15億721万円費やしている。この補助金の使途は、テレビ受信障害の対策費というが、詳細はディスクローズされていない。
 同協会はまた、駐車場事業から上がる収益金で航空の安全事業のため航空関係公益法人に助成を行っている。99年度には約1億4700万円助成した。自らの判断で自前の資金で行っている、というが、事業計画についてはすべて事前に運輸省に相談・連絡していることからみて、逆に運輸省の要請や指示を受けて助成している可能性も考えられる。いずれにせよ、多額の補助金を受け取る同法人の事業資金の流れを透明化するため、情報開示が一段と進められなければならない。

 役員体制はどんなか。
 同協会の役員14人(2000年6月30日現在)中、常勤役員は5人。うち、会長から理事長、専務理事、常務理事と、最上位4人はいずれも運輸省OB。わずかに常勤理事一人だけが民間出身者で、協会付属機関の航空環境研究センター所長を務める。協会は事実上、運輸省の「聖域」と化している。


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