■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第18章 人件費も税金から引き出すパラサイト「公益法人」
数日前、ビジネスで来日したイスラエルの友人を都心のホテルから成田空港まで車で送った。高速道路の湾岸線を通り、空港への出口に至ったとき、彼は前方のトゥルゲートの料金表を凝視して吐き捨てるように叫んだ。
「ここまで16ドルだって!?クレージーだ、なぜこんなに高いんだ!」。
習志野からこの新空港・料金所までの通行料は1650円。わずか50キロほどの距離だ。その習志野までは「首都高」を使ったから、既に700円の通行料を払っている。経営者の彼がいつものようにドルに換算すると、しめて21ドル余りかかっている。
ここで怒りが破裂する前に、東京のタクシーはどんなに近い距離でも最低6ドル(660円)も取る、と友人はしきりにぼやいていた。それに比べるとバンコクはいい、タクシーは6ドルもあれば街の端から端まで走れる、と東京に来る直前に訪れたタイを懐かしんでいた矢先だった。
彼の怒りはわかる。高料金の理由を訊かれたが、車はもう空港にすべり込んだので「ひと言でいえば、日本が“大きな政府”だから価格が異常に高くなるのだ」と言っておいた。
日本の公共料金が国際水準に比べダントツに高いのは、何よりも役所が業者保護のため、競争制限をして価格を「業者がやっていけるように」規制するせいだ。そして第二に、日本道路公団のような特殊法人とか天下り先の公益法人のごとき「見えない政府」を支える資金づくりを狙って、例えば“学識経験者”などからなる審議会の第三者的権威を使って料金引き上げの妥当性を答申させ、「官が決めた価格」を民間利用者に押しつけるからである。
国や自治体に寄生する「丸抱え法人」
話を公益法人に戻そう。
前回、補助金が公益法人を仲介役に研究機関などに交付される「トンネル法人」の実態について述べたが、収入のほとんどを国や地方自治体からの補助金、委託費に依存する公益法人も少なくない。いわゆる「丸抱え法人」である。
「丸抱え法人」はいわば、公金抜きにはやっていけないから、国や自治体のパラサイト(寄生虫)のような存在だ。問題は、国や自治体の事実上の下請け機関であり、公益法人の自主性というものがまるでみられないことだ。しかもよく似た公益法人がいくつもあるため、補助金・委託費は分散して運営は非効率的になり、無駄遣いが増える。
「丸抱え法人」の代表例の一つが、ほぼ100%国からの補助金で運営されている財団法人「日本国際教育協会」(文部省所管)。国が所管する公益法人6869(98年度)のうち、文部省は26%の1811法人を所管し、補助金の交付法人数も官庁中最も多い。その文部省の管轄下に、日本国際教育協会のほか、日本人学生や外国人留学生に対し補助金で世話をする「内外学生センター」、「国際学友会」、「留学生支援企業協力推進協会」などの類似公益法人がひしめいている。
内外学生センターの旧称は、かつて学生にその名が親しまれた「学徒援護会」。日本人学生のアルバイトや民間アパートの斡旋から始まり、いまは支援対象を留学生にも広げている。
内外学生センターへの取材は、「一般の新聞などマスコミならば受けるが、ほかは一切受けられない」(総務部)と、根拠不明の理由で拒否された。このセンターも、収入の8割を国からの補助金に依存している。
日本国際教育協会は、補助金ランキング(97年度)で文部省所管中、飛び抜けてトップの169億6530万円。事業の中身は、外国人留学生が日本で生活していくための支援で、民間アパート代の補助(大都市で1万2000円、地方で9000円)とか、日本語学校に通う外国人留学生に1人5万2000円の奨学金を支給する。今年度は帰国留学生の動向の調査とデータ化に2800万円の予算を組み、補助金から引き出す。常勤役員は理事長以下4人。うち3人が文部省OB、1人が大蔵省OBだ。理事長の小林敬治氏は元文部省体育局長。
毎年の補助金の要求は、事業の原案を財団側が「たたき台」としてつくり、これに文部省側が実施上のポイントを示すなどして固まっていく。いわば、財団は役所の行政指導を受けながら、自動的に補助金を受け取る仕組みだ。「こちらは現場。(文部省とは)一心同体的にやっている」と総務部が内情を明かした。
こういう公益法人の存在は内外の学生にとってはありがたい話だろうが、問題は奨学金ひとつとっても「いろんな公益法人が出している」(日本国際教育協会)実態だ。つまりは、国民の税金のバラまきが国民の与り知らない分野で公益法人を通じて盛大に行われているわけである。この種の公益法人は、整理統合したうえで、設置法に基づいて独立行政法人化して事業内容を透明化すべきであろう。
国の補助事業の甘い蜜
国の事務を、法的根拠もないのに独占的に補助・補完している公益法人もある。設立当初から役所と結びついて事業を独り占めしてきただけに、コストダウンのメカニズムがまったく働かない。その結果、公益法人の人件費・管理費も安易に増えがちとなり、これが上乗せされた形で補助金・委託費が交付され、国との個別の契約が高値で結ばれることにもなる。
この具体例に、財団法人の「関東陸運振興財団」(旧称、陸運賛助会・運輸省所管)、「国有財産管理調査センター」(大蔵省所管)、「防衛施設周辺整備協会」(防衛庁所管)、「空港環境整備協会」(運輸省所管)、「矯正協会」(法務省所管)などがある。共通項は「国との一体事業・一体意識」だ。
「関東陸運振興財団」は、トラックやバス、乗用車、二輪車などのナンバープレートを交付する事業を運輸省から任されている。一都関東五県(千葉、埼玉、山梨、群馬、茨城)のテリトリーを「地域独占」の形で手がけてきた。
設立は戦後まもない1949年。当時、退職した運輸省OBが「陸運賛助会」の名で設立し、理事五人全員に元運輸省幹部が名を連ねた。設立2年後には東京陸運局長から「自動車登録番号標」の交付代行者の指定を受け、直ちに交付代行業務実施のため品川、浦和、千葉、水戸、前橋、甲府に事業場を設置している。
その後は、モータリゼーションの進展で急増する保有車両数に伴い、営業所を17カ所に増設し事業を広げた。2000年3月期決算によれば、職員数230人で民間企業の純利益に当たる「当期正味財産増加額」は1億5090万円に上っている。
この財団の場合、国から補助金も委託費も一切受け取っていない。その代わり、ナンバープレート交付の手数料収入でやっている。納税者と消費者にとっての問題は、法人の役員や職員の人件費が、役所が認可した交付手数料の中に織り込まれていることだ。
役員をみると、非常勤の会長、小野維之氏が元運輸省関東運輸局長。常勤理事10人のうち理事長の森谷進伍氏が同じく元関東運輸局長、ほかに理事三人が運輸省OBだ。つまり理事の40%に当たる10人に4人が、監督官庁の天下りなのだから、96年9月20日に閣議決定した「公益法人の設立許可及び指導監督基準」に違反している。この基準によれば、「理事のうち所管する官庁の出身者が占める割合は、理事現在数の3分の1以下とすること」と決められているのだ。
同財団は、役員や職員の人件費を交付手数料に含めて役所に申請しているが、その仕組みは次のようになっている。まず、財団側が人件費を計算して運輸省に案を提出する→運輸省はこの案を検討、吟味して、「口頭で」手数料をこれこれの額でこのように書いて申請するように、と指導する→これを受け、財団側が手数料の申請書を正式に運輸省に提出する。
このようにして、92年秋にナンバープレート交付の手数料を約10%値上げしている。運輸省が財団の意向を汲みながら手数料を実質的に決め、天下り先にもしているわけである。このコスト分を負担するのは消費者(車の保有者)である。消費者は人件費相当分高くなったナンバープレートをそうとは知らずに買わされている。独占事業だから、消費者がそれを不満にほかの安いところでナンバープレートを交付してもらおうとしても選択の余地がない。国際的にみてべらぼうに高い日本の物価高の要因の一つは、こういう「見えない政府」が作り上げている仕組みによるものだ。
ナンバープレートの交付手数料は大型のトラックやバスを例にとると、東京で交付される場合はペイント式が一枚あたり980円、字が光る字光式が1960円。東京から遠隔になるにつれ高価になり、茨城、群馬などはペイント式で1040円、字光式で2070円に跳ね上がる。
財団の内部資料によれば、大型車のペイント式交付手数料980円(東京)の場合、民間企業に製造させているナンバープレートの仕入れ値は686円だから、294円の利ざやを得ていることになる。「手数料の30%が粗利」という優雅な商売を国が保証している形だ。
委託費で人件費を吸収
大蔵省所管の財団法人「国有財産管理調査センター」の場合はどうか。
同センターは歴史が浅く、バブル経済が崩壊に向けてきしみだした91年に設立されている。背景には、地価が暴騰したため売りにくくなった国有地を有効利用しなければ、という時代の要請があった。負担が急騰した相続税を払えずに個人が国に自分の土地を物納する「物納財産」の価格公示売却や公務員宿舎の維持管理業務など、国から委託を受けた国有財産の管理・有効活用が事業の中心。国からの委託費は99年度、約24億8100万円に上った。
国有財産の維持・管理はもともと大蔵省理財局の本来の業務のはず。ところが地価暴騰の影響で土地の物納が94年頃から急増し、早急な売却とそれまでの間駐車場などへの有効利用が急ぎ必要な情勢となり、同財団への委託が急ピッチで進んでいく。
山崎幸夫専務理事によれば、大蔵省の手足となる地方財務局が同財団設立前は自ら物納財産の管理・処分を含む業務を行っていたが、信用組合など地域金融機関の検査に要員が割かれたこともあり、新局面に対応するには手が足りなくなったことが、財団依存の背景にある。「大蔵省が定員削減で仕事がシビアになってきている」ともいうが、こういう形で「見えない政府」が肥大化し、国民の税金が委託費の形で急増しているのである。そしてこの委託費の中に、財団の人件費もざっと半分含まれている。
同財団によれば、「実費支弁事業」と呼んでいる駐車場運営のような収益事業がある。この中から役員給与など人件費の残り半分が賄われるという。人件費の「半分は委託費から、半分は自前の収益事業から」という折半方式をとっているわけだ。役員などの給与水準は大蔵省主計局とも相談して決められている。常勤役員の給与額については「特殊法人の最も下のランク」だという。
同財団の常勤役員は専務理事と常務理事の二人。うち山崎氏は元大蔵省四国財務局長、保坂豊常務理事は大蔵省理財局の元課長、非常勤監事二人のうちの一人、矢沢富太郎氏も85年10月に大蔵省から初めて監査法人(合併でできた「太田昭和」)に「会長」として天下り、波紋を投げた同省関税局長OB。財団の主要ポストは大蔵OBが占める。
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