■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第200章 ワクチン接種遅れ 途上国並み/危機対応の無能さらす

(2021年7月1日)

コロナワクチン接種の遅れは、多くの国民に深い困惑と失望感を抱かせた。「こんな国とは思わなかった」と友人らは落胆を隠さない。英国のG7サミット開催時点でG7とオブザーバーの3カ国(インド、オーストラリア、韓国)の計10カ国中、日本は接種率で最下位。国際的にも評価を大きく落とした。

五輪開催に不安深まる

政府は、国民の生命と財産を守るのが最大の務めである。しかし、肝心要(かなめ)の政府の対応が危機に瀕している。日本の新型コロナ感染者は依然増え続け、死亡者はすでに1万4000人を超えた。東京五輪を間近に控え、開催への国民の不安は深まる。それは何よりも緊急事態宣言下で減少傾向にあった感染者が、人出の急増で再び拡大することへの不安である。 国民の多くが「生命の危険まで冒して五輪を開催するのか」と真剣に心配しているのだ。
コロナ禍の脅威は、むろん国民の生命に対してばかりでない。感染の拡大は経済を直撃した。英国型、ブラジル型、南ア型変異株に続き、さらに感染力が強いインド型が現れた。感染の波が繰り返し襲い、政府・自治体の外出規制の矢面に立たされた外食、観光、宿泊、文化事業者などの経済困窮がきわまったのは周知の通りだ。

内閣府が発表した1〜3月期の実質国内総生産(GDP)成長率はマイナス1%、年率換算でマイナス3.9%。民間エコノミストによる4〜6月期の平均予測値は、ほぼ0%。年率でも1年前の第1次コロナ禍のGDPとほぼ同程度だ。日本経済が回復軌道に乗るのはようやく7〜9月期以降になる、と多くのエコノミストは見る。
これに対し米国のGDPは1〜3月期に年率で6.4%成長した。早くもコロナ感染前と同程度の水準に回復した。この日米の格差は、ワクチン接種のスピードの差だ。欧州も1〜3月のGDPはマイナス成長だったが、4〜6月期は一転して5〜6%ほどの成長が見込まれる。日本の立ち遅れが鮮明だ。
その主な要因は、政府の危機管理の無能さと、そこから生じたワクチン接種の遅れにある。

非常事態にお手上げ

接種遅れの実態は深刻だ。東京・東久留米市に住む70代の主婦の場合、予約開始後ほぼ半日間を電話とインターネットの接続失敗でムダにした。市役所の受付電話はパンクしてつながらない。市の指定する大規模接種会場にはネットで接続でき、「予約」の欄に到達したが、「予約日」の表示が画面に現れない。数時間後ようやくつながった市の電話で、職員はこう助言したという。 「都心の自衛隊大規模接種センターのほうが早いので、そちらの予約がお勧めです」
結局、主婦は自衛隊接種会場にネットですぐに予約を取り、1週間後に会場へ。接種手続きは滞留なく進んだ。会場に入って接種を終え、所定の休憩を取って出てくるまでの所要時間はわずか35分。終日、予約すら取れなかった市役所の対応とは雲泥の差だ。
ここに課題が浮かび上がる。

法律を非常時対応に

自衛隊の接種手続きが迅速なのは「非常事態」に対応できているためだ。政府・自治体の対応がもたつくのは、非常事態への備えを欠き「危機管理」ができていないせいだ。政府は、PCR検査の不徹底に始まり、生活支援給付金の支給遅れ、根拠不明の自粛規制、先行きが不透明な中での「GoToキャンペーン」、医療崩壊のたび重なる危機―など行き当たりバッタリ対応で、国民を当惑させてきた。世界最低水準のワクチン接種率は、その延長線上にある。

接種遅れの原因のうち、政府の失態が大きなものだけで3つある。その1つが、国産ワクチンがなぜ出来てこないのか。答えは国がワクチン開発の予算を長らく付けず、コロナが拡大しても出ししぶったせいだ。
2つめが、ファイザーなど海外ワクチンメーカーとの調達交渉で「基本合意」に甘んじて詰めを怠り、供給数量、時期を決める正式契約を遅らせたこと。世界最速で接種が進んだイスラエルは、首相自らが米国でファイザー社のCEO(最高経営者)に直接談判して供給の契約を取り付け、昨年12月に接種が始まった。
3つめは、自治体任せにした接種券を持つ者への「早い者順」の接種予約法だ。この方法だと、申請者が殺到して電話やネットがたちまちつながらなくなる。そこから引き起こされる市民の時間の空費、焦りと不安はただ事でない。他方、64歳以下で接種券が届かないため、接種会場に空きが生じても受けられない者が続出している。 法律を非常時対応に改め、ニューヨーク式に接種券がなくても身分証明書さえあれば、誰でも薬局などでも接種が受けられるように出来ないか。英国ではボランティアが接種注射を行えるようにした。

政府の危機対応が鈍いままでは、ウイルス災禍は今後も繰り返される。