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第184章 関電金品受領事件/原発政策 八方ふさがる
(2019年11月18日) (山形新聞『思考の現場から』11月14日付を増補)
関西電力幹部の金品受領事件で、政府の原発再稼働政策が頓挫を余儀なくされ、完全停止に至る可能性が高まった。「原発マネー」を電力会社の経営者らが発注先の地元業者側から受け取るという倒錯した異例の経営不祥事から、原発・大手電力会社への国民の不信・不安感が一挙に深まったためだ。
事件の影響は大きい。関電が来年に目指す安全対策工事を実施中の高浜原発1、2号機の再稼働を困難にするばかりか、建設後40年以上たつ再稼働中の高浜3、4号機も運転停止に追い込まれる公算が強まった。
関電不信は、他の電力会社にも波及し、再稼働にブレーキを掛ける。現在、東電の柏崎刈羽原発(新潟県)は依然再稼働のメドが立っていないが、この事件で再稼働はなおさら難しくなる。 原子力規制委員会は今年4月、テロ対策施設の設置が期限に間に合わない場合、運転を停止する方針を決定した。九州電力と四国電力は共に施設の完成が期限に間に合わない。 九電は川内原発(鹿児島県)1、2号機が期限切れ直前の2020年春に、四国電は伊方原発(愛媛県)3号機が21年春に運転停止に追い込まれる。
10月末現在、全国の原発で再稼働しているのは、工事中や定期検査中を除き全部でわずかに6基。関電がうち半数を占める実績が示すように、福島第一原発事故後、東京電力に代わって国内の原発事業の再建を主導してきた。事件に連座した関電の岩根茂樹社長が大手電力10社の業界団体、電気事業連合会の会長を務めたのも(事件を受け辞任)、東電に代わる電力業界のリーダー役を果たしていたためだ。その関電が、事件で信用を失墜させ、再稼働に向けた業界の努力を台無しにしてしまったのだ。
原発を再稼働や新増設するための基本条件を見てみよう。再稼働を実現するには、まず原子力委員会の審査に合格する必要がある。合格するには、福島第一原発事故後に安全対策を厳しく定めた新規制と、その後追加されたテロ対策などに適合しなければならない。 各社は多額のコストがかかる古い原発設備の改修か廃炉かの選択を迫られる。仮に規制委の審査を通り、設備の適合判断が下されたところで、最難関となる原発周辺住民の同意が待ち受ける。
関電事件は、この住民同意の可能性を吹き飛ばしてしまったかに見える。同意どころか、原発差し止めを求める住民訴訟が各地で相次ぎ、目下、全国の原発14基を巡って係争中だ。 そもそも住民の同意がなければ、原発を動かすことはできない。
だが、政治の舞台は別だ。政権だけが、原発再稼働に固執する。財界の既成勢力と手を携え、原発重視の第5次エネルギー基本計画の実現を追求してやまない。
基本計画では、2030年度の電源構成に占める原発の割合を「20〜22%にする」目標を掲げる。だが、達成には稼働原発30基ほどが必要とされ、実現はどだい不可能だ。しかも、どの世論調査を見ても、人々の過半数は原発に不安を表明し、再稼働に同意していない。目標はもはや現実的でない。「原発ゼロ」に向けた見直しが必要だ。
エネルギー政策の前に立ちはだかる壁は、まだある。原発稼働で出てくる核のゴミ(使用済み核燃料)の処分場所さえも未だに決まらない。仮に再稼働が進んで、核のゴミが増えれば、今度は危険なゴミ処理の解決に迫られる。しかも貯蔵所や処分場の決定にも、住民の同意が欠かせない。 さらに、国民負担の問題が加わる。政策を続ける限り、国民は巨額のコストを利用電気料金と税を通じて負担し続けなければならない。 政府はついに失敗を認め、核燃料サイクル計画(核燃料を増殖して再利用する計画)の中枢に当たる高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃棄は決めた。しかしサイクル計画は、「もんじゅ」を欠いたまま姿を変えて継続している。すでに3兆円規模とも言われる莫大な公費が投入されたが、実現のメドは今なお立たない。
こうした「先行き不透明なムダ遣い」を続ける罪は大きい。国の経済政策の根幹を成すエネルギー政策を組み立て直すことが最優先課題となるのは当然だ。地球温暖化で気候変動が激化する折、原発の安全性は以前にも増して脅かされる。関電事件で示された「ガバナンスなき企業」に、国民は安心して電力供給を一任するわけにはいかない。
国際エネルギー機関(IEA)は10月、再生可能エネルギーの発電能力が2024年に現在より約50%増える、との予測を発表した。「再生可能エネルギーはすでに世界で2番目に大きな電力源だ」として、再生エネの電力化を加速するよう促した。
日本はこの国際的な流れに沿い、原発と石炭へのこだわりを捨て、再生可能エネルギーの供給拡大を急がなければならない。