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第182章 極端気象への想定見直し急務/従来の備え通用せず
(2018年9月19日) (山形新聞『思考の現場から』9月18日付)
7月の西日本豪雨とその後の猛暑、9月の北海道地震―一連の災害は、従来の備えを根本から見直さなければならないほど性質の変わりようを示した。前例のない豪雨と猛暑には、急進行する地球温暖化の影響が認められる。これまでの災害想定は通用しなくなってきた。
地球温暖化の実相の一つは、強い雨の頻度が増すことだ。1時間に100ミリ以上の滝のような豪雨が多発する。西日本豪雨は停滞する梅雨前線に向け、通過する台風7号の影響で南から大量の水蒸気を含む風が吹き込んでもたらされた。
6月28日から7月8日までの総降水量が、四国の高知県では1800ミリを超えた。昨年7月も福岡県朝倉市など九州北部を集中豪雨が襲ったが、今年のように広範囲にわたり長期間、大雨が降り続けたことは記録にない。
気象庁は、この大雨に際し1府10県に特別警報を発し、最大限の警戒を呼びかけた。しかし大規模な河川の氾濫、浸水、土砂災害が発生し、200人を超す死者を出した。
最悪の浸水被害を受けた岡山県倉敷市の真備町地区をみると、被害の凄さが分かる。周辺に豪雨は7月5日朝から3日間降り続いた。降水量は7月の平均降水量の約2倍に上る計276.5ミリ。 1級河川の小田川に流れ込む高梁川の水がまずあふれ、小田川も決壊して人口の多い町の北側を一挙に浸水した。119番通報が1200件以上寄せられたが、つながらない。 市長は急ぎ避難指示を発令して自衛隊に出動を要請したが、見る間の浸水で51人が亡くなった。
犠牲者の特徴は、二つあった。その8割以上が65歳以上の高齢者で、住宅の1階部分で遺体となって見つかったことだ。急な浸水で2階に避難できなかったのである。
他方で、今回の豪雨被災は倉敷市が作成したハザードマップが示す浸水域とほぼ重なり合う。危険が想定されていた地域だが、緊急対応ができなかったのだ。
ここから汲むべき教訓が浮かび上がる。
一つは、豪雨の性質変化だ。豪雨がここ数年、極端化し、あまりに過激になってきた。激しさを増したばかりでない。長期にわたり、広域化してきたのだ。
IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の最新報告書が指摘した通り、地球温暖化の影響で気候の極端化が進んでいるのである。実際、7月には猛暑の埼玉県熊谷市で41.1度と国内最高温度を更新した。全国的にも今年は最も暑い夏となった。
日本列島に限らない。世界的に異常な暑さを記録した。欧州ではポルトガルで46度台に上った。米カリフォルニア州では山火事が100件以上も多発した。北極圏でも各地で30度以上を記録した。
2016年当時、気候学者は世界的な暑さに際し「非常事態」と呼んだが、今年はこれを上回る未曽有の酷暑となった。地球温暖化が世界の気候と海洋を高温化し、そのせいで極端気象が急増したのだ。
そうなると、防災対策のモードを「温暖化対応」に切り替えなければならない。ハザードマップの運用に当たり、「災害の急激化と広域化」を想定してかからなければならない。
その際、浸水しても2階に避難するのが困難な高齢者や障害者、乳幼児など「要配慮者」の救援を、行政が優先第1位で対応することが重要だ。さらにハードとソフトの両面から対策を見直す。学校や公民館などの避難所自体が浸水する危険に照らして、安全性の観点から避難先を改廃・再編する。ソフト面では河川の水位情報や避難情報にスマホを活用する―などである。
東京東部の江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)は8月、「大規模水害広域避難計画」を発表した。作成したハザードマップと一対で、対策をまとめたものだ。
江東5区は低地帯で隅田川、荒川、江戸川などの大河川やその支流が多く流れる。水害には脆弱な地勢で、これまでも洪水や台風による高潮で大きな水害に見舞われた。 地球温暖化の影響による台風の強大化や豪雨の激甚化などを想定して、江東5区の人口249万人を災害から守るために策定した。 同計画は「高潮及び洪水それぞれの浸水想定区域内のすべての住民を広域避難の対象者とする」とし、要配慮者対策も仔細に明記した。在宅の要配慮者には、「予め定めた近距離の避難施設への避難や自宅での屋内安全確保を検討する」としている。
このような自治体の再見直しが、住民の関心を引き寄せ、安心感を与えて「無事に避難」の確率を高める。