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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第173章 文科省の天下りあっせん問題/「学問の自由」を侵害

(2017年3月15日) (山形新聞「思考の現場から」3月15日付掲載)

文部科学省の天下りあっせん問題は、大がかりで周到な組織ぐるみの違法工作を浮き彫りにした。規制強化にもかかわらず繰り返される国家公務員の天下り。抜本的な防止策はあるのか―。

この問題の悪質性を象徴するのが早稲田大への天下りだ。これは憲法第23条が保障する「学問の自由」を侵害しかねない問題をはらむ。ここに至った要因に、文科省の天下りあっせん装置の働きと、財政状況をよくしようと補助金を求める大学側の思惑がある。
08年12月施行の改正国家公務員法は、現役職員による職員やOBの再就職あっせんおよび補助金や許認可規制で関係のある企業・団体への在職中の求職活動を禁じている。 文科省は、あっせんに手慣れた人事課OBを使う“抜け道”を利用した。このOBは退職直後から本人が言うには「人助け」として再就職あっせんを開始。その後徐々に活動を拡大していき、2013年頃までに人事課が共同して再就職あっせん体制を構築するに至ったという。

注目すべきは、文科省所管の公益法人を活動拠点と資金手当てのツールにしたことだ。あっせん役のOBが公益財団法人「文教協会」に参与として就任する一方、設立した「文教フォーラム」(昨年、任意団体から一般社団法人に移行)の理事長を務め、事務局を文教協会の分室に置いた。 その上で分室で働く事務職員を文教協会から出向の形で受け入れ、給与負担はゼロ。年間300万円超(15年度)に上る家賃・光熱費・電話代なども同協会の支出で賄われた。 同OBにあっせん活動の場を与え、経費を文科省傘下の天下り先公益法人が丸抱えしたわけだ。天下りあっせん活動経費は文科省の補助金から支出され、事実上、国民の税金から賄われたことになる。
文科省はさらに「出向」を天下りに活用した。国立大への出向数は今年1月現在、241人。手口は「現役出向」から戻った当日に1日だけ復職させ、翌日に大学などに再就職させる。出向時は退職金は出ないため、1日だけ復職させて退職金を満額支給して再就職先に送り出すのだ。 うち一部は出向先に戻る形で再就職し、大学で教授や事務局長などの要職に就く。出向の形で大量に大学などに送り出し、天下りの基盤を広げる狙いである。

一方、受け手側の大学の事情はどうか。少子化が進む中、大学の生き残り競争は厳しさを増す。補助金が財政状況を好転させる。
「私学の雄」を自負する早大が、文科省の「スーパーグローバル大学創成支援事業」の渦中に巻き込まれた。吉田大輔・元高等教育局長を受け入れ、問題の表面化後に隠蔽工作の口裏合わせに協力したことが発覚した。 吉田氏は鎌田薫・早大総長自らが指揮を執る同事業を推進する大学総合研究センターの教授として15年10月に就任した。
「スーパーグローバル大学」に選ばれれば、予算を重点配分される。世界レベルの教育研究を行うタイプAの場合、世界ランキングトップ100を目指す力のある大学とされ、最長10年にわたり補助金の年間支援基準額は5億円に上る。 早大は2014年度に東大、京大、慶応大などと共に、計13校に上るタイプAに採択された。

ところが同事業の公募時と採択時の高等教育局長が吉田氏だったのだ。国家権力からの「学問の自由」は、とりわけ私立大学に問われる。多くの私大が学問の独立と自由を謳って創立したが、戦時体制によって挫折に追い込まれた歴史があるからだ。
今回、文科省の私大への助成金を扱う私学助成課長などを歴任した元幹部が昨年6月、慶応大にも参事として就任したことが判明した。前出の人事課OBが暗躍したが、慶大側は「規制適用外となる現役出向中に採用面談したもので、手続きは適正」とする。
しかしこの受け入れは、慶応OBの間に衝撃を広げた。創立者の福沢諭吉は学問の独立・自由を訴え、自らも生涯にわたって国からの勲章授与を一切辞退している。それ以来の「私学の本流」の学風があるからだ。 文科省は東大に10人をはじめ全国の国立大に天下って“植民地化”しているが、私大への天下り攻勢も強めているわけだ。

天下りを抜本的に防ぐには、次の三つの施策が重要となろう。一つめは民間並みに定年まで働ける職場環境づくり。年功序列型の給与体系を根本から見直し、早期退職勧奨慣行を完全廃止する。 二つめは、組織的な天下りあっせんに対し、官僚OBと受け手側を含め刑事罰を導入する。三つめは、早期退職者の再就職を支援・仲介する内閣府官民人材交流センターの機能拡大だ。