■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第171章 失敗続き「もんじゅ」廃炉も/規律喪失 弛んだ運営

(2015年11月26日) (山形新聞「思考の現場から」 11月20日付掲載に補筆)

日本のエネルギー国家戦略の柱とされる核燃料サイクル計画が撤退に追い込まれる可能性が出てきた。高速増殖炉「もんじゅ」を運営する日本原子力研究開発機構が原子力規制委員会から運営を交代するよう言い渡された。この結果、核燃料サイクルの中核施設・もんじゅが廃炉となる可能性が高まると共に、サイクル計画の存廃論議に火がつくのは必至となるためだ。

核燃料サイクルとは、原子力発電所の使用済み核燃料からまだ使えるウランとプルトニウムを取り出して再び核燃料に使う循環方式を指す。もんじゅの高速増殖炉は特殊な反応でプルトニウムを増殖し、自家消費するほかこれを普通の軽水炉原発でも燃やす「プルサーマル発電」にも使えるとした。
核燃料サイクルの開発は核先進国の米、英、仏でも試みられたが、技術的困難と莫大な費用から断念、撤退した経緯がある。海外で成功した開発例はない。日本では安倍政権が昨年まとめた「エネルギー基本計画」で、推進を明確にした。
2030年時点の原子力発電の電源比率を全体の「20〜22%程度」にすると定め、核燃料サイクル計画を原発再稼働後の原子力政策の根幹に据えたのである。
ところが、核のゴミから核燃料を増殖・循環させる「夢の原子炉」と期待されたもんじゅが、一向に機能できない。
もんじゅは1995年に発電を始めたが、4か月後に炉を冷やすナトリウムが漏れる事故を起こして運転停止。 以来、2010年の運転再開直後の炉内への機材落下事故で再び停止、12年には約1万点にも上る機器の点検漏れが発覚して原子力規制委から運転再開準備を禁じられた。それから間もない今年8月には、点検の優先順位を定めた重要度分類に1400件近い誤りが判明。 この20年間、ほとんど運転していない。

今回、原子力規制委が文部科学相に運営主体交代を求めた異例の勧告は、点検さえろくに出来ないもんじゅの内部規律の喪失に見切りをつけた結果だ。
もんじゅの運営失敗のツケは、国民の負担(税)にのしかかる。もんじゅに対し、運転停止のいまも国費から1日約5千万円、年間で維持費約200億円が投じられている。 これまでに使われた国費は1兆円に上るとされるが、初期運営主体の動燃(動力炉・核燃料開発事業団)、これを改組した前身の核燃料サイクル開発機構分を含めた核燃料サイクル経費は、すでに10兆円超に上るとされる。 東京新聞の調査報道(11月17日付)によると、いずれ必要になる廃炉費用を加えると総額で12兆円を超える。
現行の日本原子力研究開発機構に代わる新しい運営主体は、見つけるのに容易でない。原子力規制委は、半年をメドに結論を出すように求め、しかも、別組織を作って中身が変わらない看板の付け替えにクギを指したからだ。
失敗続きの背景には、幹部と職員の仕事への取り組み姿勢と規律の劣化がある。結果に関係なく毎年、巨額の予算が自動的に付くことを当たり前として弛んでしまう。「官業」が陥る組織の病と言える。
文科省は機構こそもんじゅの担い手にふさわしいと自負し、優れた人材を送り込んできたはずだった。

もんじゅの運営が破綻した背景には「官業」が陥る組織の病があるとみられる。原因の1つは、毎年、自動的に巨額の予算が付くことを当たり前として幹部・職員の維持・管理の規律が弛んでしまうことである。
「市場の監視」のないことが、さらに規律を弛ませる。民間企業には、競争による淘汰があり、うかうかしていられない。商品・サービスに魅力が備わっていなければ、そもそも取引が成り立たない。 常に市場動向に目を配り、売れるように商品開発を進め、商品・サービス力を向上させる必要がある。
もんじゅの場合、閉ざされた世界の中で未知の開発に長期にわたって挑戦しなければならず、その間も安全確保のため保守・点検作業を続けていかなければならない。しかし、高度なリスクを抱える保守・点検業務などに市場の監視はない。
情報も閉ざしているから、事故が発生しない限り市民(納税者)との対話(やり取り)にも欠ける。今後は、施行された特定秘密保護法の下、秘密のベールで業務実態がすべて隠される恐れさえある。
こうした環境下で内部規律がすっかり劣化し、保守・点検のルーティンワークさえ、おろそかになった、という構図が見える。

もんじゅの新しい運営主体が見つからなかったり、新組織の安全性が否認されたりして稼働が認められなければ、核燃料サイクル計画自体が風前の灯となる。 国はもんじゅを欠いたまま、専らMOX燃料を普通の原発で燃やすプルサーマル方式で、サイクル計画を継続しようとする政策を打ち出す可能性も考えられる。
しかし、この計画変更も簡単にいかない。実現するには、試運転中の再処理工場のトラブルを解決して本格運転に漕ぎ付け、未完のMOX燃料製造工場も完成させなければならない。 技術的に解決しても、MOX燃料は通常の核燃料より5割程度もコストが高いとされる。放射性物質の量が通常の使用済み核燃料より遥かに多く、冷却までの時間が長い処理上の難点もある。
もんじゅの運転再開が見込まれなければ、核燃料サイクル計画は実質破綻に追い込まれる状況となる。