NAGURICOM [殴り込む]/北沢栄
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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第15章 「見えない政府」が際限なく拡大
 総選挙で、「自公保」体制は国民の批判を受けて大幅縮小を余儀なくされた。国民の多くが景気低迷にみられる日本の変わりばえのなさ、利益誘導の筋なき「政治」に嫌気がさしたのだ。国民は「政・官・業」が結託して利益を追い、本当の政治は失わ れている、と感じはじめたのである。
 この利益追求システムの政・官・業のトライアングルを主導するのが「官」である。
 「官」が自らの利益を追求するための舞台装置に「公益法人」があることは、すでに再三触れた。中央省庁が日本官僚国家の「家の柱」だとすれば、公益法人はしばしば民法上の「公益」を隠れミノに、「官」が天下り、利権を大規模に栽培する「裏庭」といえる。それは、法律で定められた「官業」を通じて甘い汁を吸う「特殊法人」という裏庭に、いわば隣接するものだ。

 しかし、目を凝らせば「官の裏庭」はその先に果てしなく広がる。「特殊法人」ではないが、実質的には同じような「認可法人」もある。日本銀行とか日本赤十字社、日本下水道事業団といった公的な法人である。さらに、政府や自治体と民間とが共同出資して設立する第三セクターも、広大な「官の裏庭」の一部を成している。
 そこで、「公益法人」の問題点に切り込む前に、特殊法人改革の対象から外されてきた「認可法人」について述べておこう。

「認可法人」は改革の対象外に」

 認可法人は各種共済組合を除いて38法人、共済組合を入れると全部で84法人ある(2000年4月末現在)。この中には日銀のように政府からの独立性が高い特殊な認可法人もある。その多くは、特殊法人とどこが違うかを見分けるのは難しい。
 一体「認可法人」とは何なのか、「特殊法人」とどこが違うのか?
 特殊法人を監察する総務庁によれば、驚くべきことに認可法人について「法律上の定義はない」。では、特殊法人との違いは何かといえば、設立の経緯にあるようだ。つまり、特殊法人は国が設立委員に命じて強制的に設立したものなのに対し、認可法人のほうは民間が主体になって(例えば、日本商工会議所)国の認可を受け、任意に設立された法人だというのだ。
 とはいえ、多くの認可法人が政府の出資を受けて設立され、補助金や借入金などの公費を受け取り、役員人事で主務官庁の承認を要する、税制面の優遇措置を受けられる、などの点で特殊法人との違いはない。全額政府出資の日銀は認可法人なのに、同じく全額政府出資の日本政策投資銀行(日本開発銀行と北海道東北開発公庫が99年10月に統合され設立)は特殊法人、という具合だ。

 総務庁は「特殊法人」をどのように定義しているのか。次のようにいう。―
「法律により直接設立される法人または特別の法律により特別の設立行為をもって設 立すべきものとされる法人」
 この定義でいくと、日銀は日銀法で設立された「特殊法人」とみなされるに違いないが、実際は「認可法人」に分類されている。要するに、法律上の定義により決まったのではなく、場当たり主義で分類されたとしか筆者には思えない。
 それなのに、これまでのいわゆる「特殊法人改革」は、認可法人を対象から外してきた。改革の対象は特殊法人(78法人、2000年4月末現在)だけ、と問題を矮小化され、統廃合や改組をしても仕事も職員も減らず、ゆえに国民の負担も減らない類いのえせ改革(例えば、住宅・都市整備公団を99年10月に改称して発足した都市基盤整備公団)に終始してきた。
 改革の対象から認可法人を外したいきさつを知るには、93年の政治状況にさかのぼる必要がある。90年10月に海部俊樹内閣のもとに発足した第三次行革審は、93年10月に最終答申を細川護煕首相に渡して解散する。事件は、93年4月の「中間報告」後に起こった。中間報告で問題の「特殊法人等」のリスト一覧を公表したあと、廃止や民営化に向けた絞り込みが任期切れとなる10月までに出来なかったのだ。「官」が有力政治家を巻き込んで、ヒアリングをボイコットするなど激しく抵抗したためである。

 最終答申を受けた細川内閣は94年4月に倒壊、同年6月に発足した村山富市・自社さきがけ連立内閣が特殊法人等の改革問題を引き継ぐが、結果、改革の中身は改革対象を認可法人などを除外した狭義の特殊法人(当時92)に限定し、その法人数を統廃合で減らす、というものだった。「業務減らし・職員減らし」に踏み込まずに、実質のない「数合わせ」で終わったのである(詳しくは松原聡著『特殊法人改革』日本評論社を参照)。
 このように、特殊法人の改革は形ばかりで事実上先送りされ、認可法人の改革については手つかずの放置状態が続いているのである。

「政府の範囲」が肥大化

 だが、改革の緊急性からすると、公益法人改革のほうをまず急ぐべきであろう。それは次の二つの理由による。
・「公益法人」を指す社団法人または財団法人は民法34条に基づき設立されるが、設立要件となる「公益性」の定義があいまいなため、許可権限を持つ主務官庁や都道府県は恣意的に許可する恐れがあり、結果、乱造されやすい(現在、2万6,000法人以上もある)、
・特殊法人への天下り批判を受け、「官」の“領地先”が近年、特殊法人から隠れミノとしてより有効な公益法人へとシフトしてきている―ためだ。
 事実、総理府が国所管の6,879の公益法人を調査したところ、国家公務員出身者が役員として在職したことのある法人は17%に当たる1,157に上った。民間が主体になって作ったはずの公益法人のほぼ「五法人に一つ」が、国家公務員OBを受け入れていたことになる。しかも、これらのOBが役員を退職する際に「3,000万円超」の退職金を受け取った人が過去10年間で述べ200人(いわゆる“渡り鳥”を含む)に達していることもわかった。なかには、役員在職六年以下なのに5,000万円を超える退職金を貰った者もいる。

 この調査対象には、地方公務員OBは含まれていない。都道府県所管の公益法人数は全体の74%にも当たる1万9,600以上あるから、これらに許可・監督権限をタテに相当数の地方公務員OBが天下っているはず。しかし調査はまだ行われていないため、実態は不明なままだ。
 先の調査資料一つみても、官僚たちが公益法人の設立に手を貸したあと、これらを自分たちの天下り先と利権の温床に使っている実態が垣間見える。公益法人を設立するための要件は次の三つが満たされればできるとされ、実質的には「官」の一存で決まる。

・ 公益に関する事業を行うこと
・ 営利を目的としないこと
・ 主務官庁の許可を得ること
 このようにして公益法人が乱造された結果、由々しき構造的問題が次々に発生してきた。問題は大別して三つある。
 第一は、事実上の「見えない政府」が際限なく拡大し、主務官庁による設立許可制のため設立に歯止めがかからないことだ。各省庁は自己の勢力圏を広げるため、公益法人という名の政府の子会社とも言うべき「行政周辺法人」を増やすことに血道をあげる。結果、「政府の範囲」があいまいな形で肥大化し、「大きな政府」となって規制が多くなり、民間の活動を圧迫・抑制するようになる。
 第二に、各省庁がバラバラに設立を許可し監督するため統一性・整合性に欠け、公益法人の活動を、税を負担している国民の側からみて不透明でわかりにくいものにしている。
 第三に、主務官庁による設立許可制に伴い、事業活動の範囲も官制に沿って縦割りになる結果限定され、民間本来の自主的な公益活動が妨げられる(幅広い公益活動を実施しようとすれば、複数の官庁の「共管」となるため、毎年の事業報告などに対し公益法人側の負担は大きくなる)。

 こうした構造的問題は、結局、主務官庁が設立許可と指導監督を行っているところに根ざしているといえる。したがって、この構造を改革しなければよくならない。設立要件を明確化して、例えば「公益性」についての判断基準を「チャリティ活動」のようにわかりやすいものにする。他方で、主務官庁制を廃止し、行政から独立して公益法人の設立許可・指導監督業務を行う第三者機関を設立する必要があろう。

「トンネル法人」と「丸抱え法人」

 このような構造的問題からさまざまに個別の問題が派生してくる。そのうち最も目につくのが、国の補助金・委託費のムダ遣いである。少し資料は古いが、97年度決算ベースでみると、国所管の公益法人への補助金の総額は、法人数438に対し一般会計、特別会計合わせて約2,677億5,300万円に上った。委託費は678法人に計約1,430億3,300万円。
 補助金でみると、10億円以上を受け取った国所管公益法人は、計40法人ある。このなかで、問題の第一は、国の一般会計、特別会計からの多額の補助金が、公益法人を仲介して大学や研究機関に交付されるケースがあることだ。
 つまり「トンネル法人」である。医学や医薬品の研究用に補助金が必要な場合、研究機関に直接交付すればよいものを、所管官庁OBが理事長や常勤理事を務める公益法人をトンネルにして行う必要はあるのか。「トンネル法人」を使うと、同法人の人件費・管理費分のコストが余計にかかるようになる。しかも、仮に補助金の必要性がなくなっても法人を維持するため、無用な交付が続けられる恐れがある。
 補助金を巡る第二の問題は、国とか地方自治体からの補助金で収入の全部か大部分を賄っている公益法人が少なくないことだ。

 いわゆる「丸抱え法人」である。こうした法人の場合、補助金を国が公益法人を介さずに直接相手先に交付するか、法人自体を独立採算制にする独立行政法人に移行させるべきではないだろうか。
 「丸抱え法人」は、単に国とか自治体の下請け機関として動いているだけだから、事業の自主性が育ちにくい。そうなると、自主的な公益活動の展開はますます期待できない。このような法人の場合も、「自主的な活動」がみられなければ廃止するか、似たもの同士を整理統合したうえ独立行政法人化するか民営化して独立採算制の自立型組織に改めるべきであろう。
 次号で、こうした問題法人の具体例を挙げ、実態を浮き彫りにする。


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