■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第167章 独立行政法人の裁量拡大/新制度で国民負担の増加も

(2015年5月11日)

独立行政法人(独法)の新制度が、今年4月に施行された。特殊法人から衣替えした独法の「改革」が目的とされたが、新制度は「独法の運営のやりやすさ」を主眼とし、国民の負担を招く仕組みを導入するなど行政改革の視点に乏しい。

全法人を3分類

新制度の最大の特色は、全ての独法に一律の制度を適用することをやめて、業務の特性に応じた法人の管理を打ち出した。これを実行するため、全部で98(今年4月1日現在)ある独法を三つに分類した。
国民生活センターや国立病院機構、農畜産業振興機構、水資源機構など60法人は「中期目標管理法人」に分類され、主務大臣が指示する3〜5年の中期目標を管理する。
研究・調査機関の31法人は「国立研究開発法人」に分類される。研究開発成果の最大化を目的として、最大7年の中長期の目標を管理する。 理化学研究所、国立がん研究センター、日本原子力研究開発機構などが該当する。このうち、世界トップレベルの成果が期待される産業技術総合研究所などの法人(「特定国立研究開発法人」)については別の法律により予算などに特別な措置が講じられる。

残り7法人は行政からの業務委託など「国との密接な連携関係」にある法人で、「行政執行法人」に分類される。国立公文書館、統計センター、造幣局、国立印刷局などが含まれる。目標は単年度管理で、要員は公務員身分となる。
総務相が目標・評価に関する指針を策定する。 全ての独法の業績は、首相が任命する委員10人から成る「独立行政法人評価制度委員会」(総務省に設置)が一括してチェックし、主務大臣に意見を伝える。特に必要がある場合は、首相にも意見具申ができる。
旧制度では各府省が指名した委員から成る評価委員会がそれぞれの評価基準でチェック役を担った。その結果は府省の意に沿った「現状追認型の評価」に終始し「お手盛り」と批判されていた。

所管する主務大臣は目標を具体的に設定し、権限が強化された独法監事の報告をもとに違法行為の是正措置を命令できる。 命令に違反すれば罰則も科せるようになった。これまで主務大臣は違法行為の「是正要求」はできたが、命令・罰則の権限はなかった。閣僚の権限を強め、独法の規律の厳格化を図った。

給与引き上げ可能に

その一方、独法の運営を柔軟化し、給与増を決められる仕組みも導入された。業績評価と規律の厳格化というムチに対し、アメに相当する措置だ。
新制度は「事業の特性への十分な配慮」を謳い、独法の判断で役職員の報酬・給与基準を国家公務員だけでなく民間企業や当該法人の業務実績、職務の特性等を考慮して決められるようになった。これにより、近年は抑えられていた理事長など役員報酬の高額引き上げも可能となる。

これは多種多様な事業を実施する独法に対し「独法制度を一律に適用してきたため、独法の特性に応じたものになっておらず、期待されていた国の政策実施機能が十分に発揮できなかった」という反省に立った対応、とされる。
しかし、この仕組みは「国民の負担増」と引き換えだ。独法にとって運営に関し自らの判断で報酬・給与を引き上げられるのはありがたい話に違いないが、原資となるのは国民から徴収された税金だ。独法職員の平均年間給与額は、すでに国家公務員を上回る。独法が「事業の特性」を逆手にとって、自らをさらに優遇していき、国民の負担増を招く恐れがある。

新制度は総じて、独法の「運営のやりやすさ、役職員の厚遇を狙った制度」といってよい。
これを推進した自民党の行政改革推進本部が、“本音”をのぞかせる。同本部「独立行政法人・特別会計委員会」(村上誠一郎会長)は、2013年12月にまとめた報告書に「改革の目的」についてこう記した。

「…民主党政権下においては政治的なパフォーマンスとして、法人やその業務の必要性を十分に議論することなく、廃止ありきで偏向的な議論が進められ、…乱暴な見直し方針が策定された。このため、わが党は責任与党として民主党政権下の見直し案を白紙に戻し、…地に足のついた真の行政改革を推進することとした」。次いで、「新たな制度・組織の下で最大のパフォーマンスが発揮されるようにする必要がある」と結んだ。
ここでは「第2の特殊法人」と批判された、独法の国民負担問題が見事に抜け落ちている。

「数減らし」に腐心

独法は新行政改革の一環として2001年4月に誕生したが、次々に問題が表面化した。それに対応した改革は組織の統廃合が中心となり、歴代政権は国民にアピールしやすい「数減らし」に腐心してきた。
福田政権は101法人を85に再編する方針を閣議決定し、これが実施されないまま民主党政権は102法人を64法人に再編する方針を打ち出した。第2次安倍政権は2013年末、医療分野における研究開発の司令塔として日本医療研究開発機構を新設する一方、100法人を最終的に87へ再編することを閣議決定した。

これまで問題になったのは制度の悪用や国の予算浪費問題、府省庁からの大量の天下り、系列の天下り先公益法人や下請け民間企業への随意契約による業務委託などだ。独法には運営費交付金などの名目で、2015年度に2.8兆円の国家予算が付いている。

独法による制度の悪用では、特殊法人より広く認められた業務運営の「自由裁量」をいいことに、役員の報酬・退職金を前身の特殊法人を上回る水準に引き上げたケースがある。所管の独法評価委員会も、これを「問題ない」として承認してきた。
予算浪費では、出資した民間企業の倒産などで、回収できなくなった「焦げ付き」の存在がある。会計検査院の調べによると、2012年度末時点に9独法の出資金、約535億円が回収できなくなっている。200億円以上が回収不能となった農業・食品産業技術総合研究機構や医薬基盤研究所は、研究開発の目的でベンチャー企業などへ安易に出資したことが原因とされる。
これら世間を騒がせた一連の問題は、まるでなかったかのように、今回の制度改革では扱われていない。