■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第150章 2012年、“天下り問題”はどこに向かい、どう決着するのか

(2012年1月25日)

「天下り根絶」を掲げて政権交代を果たした民主党だが、官僚の巧妙な手法や首相交代による方向転換などで、徐々に「脱・脱官僚」へと変質した。 しかし、現在の政策、政局の動きから、2012年は天下り問題が進展する可能性が見えてきた。

天下り問題の行方

2012年は、天下り問題に大きな突破口が開かれるかもしれない。理由は、消費税の10%への引き上げの政府決定を受け、政治的理由から行政改革が避け難くなるためだ。
とはいえ、現実的に占えば、民主党政権の支持母体が公務員労組であることと、これまでの実績からみて、政府が天下り問題に対して再び「形ばかりの偽装改革」でごまかす公算の方が大きいだろう。
にもかかわらず、突破口が開かれる可能性を指摘したのは、いまの政治状況が極めて不透明かつ流動化しているためである。総選挙と絡めてそれが実現することが大いにあり得るのだ。

天下りは官僚組織の問題

これまでの経過と問題点をおさらいしてみよう。 天下り問題の本質とは、官僚個人の再就職の善し悪しではない。組織が行う慣行と仕組みである。官僚組織が日本経済・社会全体に及ぼす由々しき問題なのである。
天下りのどこが悪いのか。ひと言でいえば、国民のカネを自分たちの天下り先法人に使って天下りネットワークを養い、自分たちが天下りを不断に続けられるようにしていることである。 どのようにして国民のカネを使うか、といえば、補助金とか委託費、交付金の形をとる。自分たちの天下り先を特定して契約(随意契約)を交わし、公金を支出して天下り先が経済的にやっていけるようにするのである。
それも「指定法人制度」という法令で契約先を指定してしまう方法も取られる。国会審議に諮らずに閣議決定や大臣決裁で済ます政省令を使って、省庁がいつの間にか制度化してしまうこともある。
こうしたやり方で、各省庁は所管の天下り法人に国家試験とか調査・研究、検査・検定などを委託する形で経済利権を与えてきたのである。 この仕組みを維持・強化するため、許認可権限を背景に、官僚は規制を外さなかったり、強化して民間からの競争参入を妨げたりして、民間にニラミをきかせてきたのだ。
天下り先法人の大半は、省庁が設立を許可した所管の公益法人(厳密に言えば、2008年12月の公益法人改革施行以前に設立された財団と社団)が占める。さらに国の機関である独立行政法人(独法)や特殊法人、認可法人、特別民間法人および所管の業界の民間企業が天下り先となる。 この官の天下りネットワークは、長い年月にわたり法令に基づいて築かれてきた。

マニフェストを全面否定

多くの国民が待望する「天下り根絶」を掲げて政権交代を果たした民主党政権。09年衆院選向けマニフェストは「国家公務員の天下りのあっせんは全面的に禁止する」と謳った。 これを受け、鳩山由紀夫首相(当時)は09年9月、天下りあっせんを認めない方針を明言する。
ところが、官僚は表向きにはこれに従うふりをしたが、すぐさま骨抜きに掛かる。 極め付きは、「官民人事交流」を口実とした抜け道だ。「出向」「非常勤」の形を取って、実質、高給で天下るのである。「出向」も「嘱託」も「天下り外」とされるから、「天下り」にカウントされない。ここに着眼した“天下り隠し”だ。
菅直人政権になってからは、公然と民主党マニフェストから背を向け、官僚と手を握るようになる。10年6月にはなんと「官僚との一体化」の基本方針を決め、次のように閣議決定した。
「政務三役と官僚は、それぞれの役割と責任の下、相互に緊密な情報共有、意思疎通を図り、一体となって、真の政治主導による政策運営に取り組む」

次いで10年6月、「退職管理基本方針」を閣議決定する。この中で「中高年期の職員」の民間分野での活用に言及した。 従来の天下り対象者である中高年職員を「官民の人事交流拡大」の目的で派遣しよう、というのだ。 案の定、11年2月の衆院予算委で、政権交代後の1年間に省庁OBや現職出向者が独法や公益法人など1040法人の計4240ポストに就任したことが、自民党の追及で明るみに出る。天下りが事実上、野放しになっていたのだ。 10年8月には退官した前資源エネルギー庁長官が東京電力の顧問に、元財務事務次官が大和総研の理事長に就任し、公然と道を開いた。
天下りが野放しになったのは、08年まであった「退職前5年間の職務と関係の深い業界への再就職は2年間禁止」という規制が撤廃されたためでもある。 「あっせん」がダメなら「自発的意思で天下ったことにする」とか、「官民交流を名目にすればよい」というわけだ。

野田佳彦政権は、公務員寄り政策をさらに先へ進めた。11年6月に震災復興財源に必要だとして国家公務員の給与を13年度までの2年間、平均7.8%引き下げる法案を国会に提出。労働基本権のうち給与を団体交渉で決める関連法案とセットで成立を図った。 ところが双方とも成立せず、給与引き下げ法案を通すために人事院勧告(11年度平均0.23%引き下げ)の実施を見送ったことから、公務員側は前年を上回るボーナス(期末・勤勉手当)を満額支給されることとなった。
野田内閣がこだわったのは、公務員労組の要求に沿い「給与を自由に決められる協約締結権を労組に与える」ことだった。民主党の有力支持組織の連合が、人事院勧告の無視を主張し、給与の平均7.8%引き下げを支持したのも、労働基本権を回復して3年後から団体交渉で給与の引き上げを企んでいたためだ。

このように、民主党政権はもはや「脱・脱官僚」一色となって変質した。ここで反省してマニフェストへ回帰するとは考えられず、天下り問題にしても本気で断行する意思はないとみられる。
しかし、大阪都構想をひっさげて登場した橋本徹大阪市長が主役となり、本物の行革に向け動き出す可能性は大いにある。それはワイマール時代にバイエルンの一地方政治家にすぎなかったヒトラーが、ほどなくドイツの首相となり、国家権力を掌握したことを連想させる動きではある。
橋本市長と連携する形で、民主党内改革派や、みんなの党など野党勢力が政権奪取に絡めて改革志向で合従連衡する、と考えるのは自然だ。その前兆となる駆け引きは、すでに始まった。与野党のほとんどが橋本氏に秋波を送っていることからも、それは読み取れる。
その意味で、2012年は天下り改革への気運が一挙に高まり、突破口をあける公算が大きい、と言えるだろう。