■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第149章 天下りと公益法人の深い闇

(2011年11月1日)

これまで天下りの最大の受け皿になってきたのは、公益法人であった。08年12月に施行された新公益法人制度―。 それ以前、約2万5000を数えた公益法人(財団法人と社団法人)の多くが天下りを受け入れ、見返りに国や自治体から補助金等を受け取る「官益法人」として暗躍してきた。国や独立行政法人、自治体と人やカネでつながる公益法人の総数は、ざっと3分の1に上る7000法人余りとも言われる。その問題法人の実像を、特性タイプ別に浮かび上がらせてみよう。

経済産業省OBが天下る財団法人「電源地域振興センター」。同財団が原発関連事業を独占している問題で、枝野幸男経産相は9月、同独占事業の根拠とされている国の運用規則の改正を指示した。政権交代直後の09年秋、この国の官僚主導体制の象徴とされた事務次官会議を鳩山内閣が廃止したが、野田内閣はこれを事実上、復活させた。その直後の新経産相の切り込みだった。大幅な改革後退の最中でのささやかな“巻き戻し”であった。
問題の規則とは、電気料金の割引事業者を「原子力発電共用施設の設置および運転の円滑化に資する事業を行う一般社団法人または一般財団法人に限る」としたものだ。この規則に従い、原発が立地する周辺地域の住民に電気料金の一部を給付して割り引く、全国15道県にまたがる事業を電源地域開発センターが独占してきた。枝野経産相は、この委託事業に競争性を導入し、民間企業の参入を認めるよう、規則改正を指示したのだ。
同センターには理事長に元中小企業庁長官など、経産省からOB3人が役員に天下る。

ここに筆者も委員に加わった「厚生労働省独立行政法人・公益法人等整理合理化委員会」に同省が昨年末に提出した重要資料がある。
この中に、厚労省や傘下の独立行政法人、都道府県との関係が強い所管の問題公益法人が類型別にリストアップされている。これら問題法人の類型は、他の省庁の所管法人のそれと共通する。なぜなら、各省庁とも同じ手口で自らの意に沿った公益法人を増やしてきたからである。

この文書によると、問題法人の多くがいわゆる「指定法人」だ。指定法人とは、国の指定を受けて特定の事業を実施する法人である。指定法人には業務の性質上、5つのタイプがある。
第1のタイプは、交付金を受け取って指定された事業を行う公益法人で、厚労省所管に6法人ある。いずれも指定根拠法令に基づくため、合法的、独占的に事業を運営できる。
この6法人とは、日本看護協会、全国生活衛生営業指導センター、港湾労働安定協会、全国シルバー人材センター事業協会、介護労働安定センター、二十一世紀職業財団である。

前出の委員会が問題視したのは、この「指定制度」で民間からの参入が阻害され、「官益法人」が公金を得て事業を独り占めする点にあった。たとえば介護労働安定センター。介護労働者への支援などが事業内容だが、同様の事業を行っている民間のNPOなどは排除され、補助金など公費は支給されない。民間の事業者は、競争上、不利となり、圧迫されるのは自明だ。
二十一世紀職業財団の場合、パート労働者の雇用管理改善のための給付金支給などが事業内容だ。同財団は09年度に国から60.4億円の交付金を受け取っている。
しかし、給付金支給のような単純作業なら、専門化された技能や知識は必要でないから、国が事業者を指定する理由は見当たらない。競争性を導入し、事業引き受けに民間から公募させる仕組みを作るのがスジだ。そうすれば、民間参入によって受注高が下がり、公費の縮減が図れる上、民間事業の活性化や雇用増も実現できるからである。

指定法人の第2のタイプは、「指定を受けて国家試験・有資格者登録業務を実施し、受験料や登録料を得ている法人」だ。厚労省所管に14法人を数える。
この中に、柔道整復研修試験財団がある。柔道整復師と呼ばれる骨つぎ・接骨師、整骨師は厚労省の免許の下で捻挫、骨折、脱臼、挫傷などに対し日本古来の伝統的施術を行う。柔道整復師は国家資格のため、国家試験を実施し、柔道整復師の資格登録事業が必要となる。これを国から指定されて行う法人が同財団である。09年度の受験料・登録料等の収入は1.7億円。前出の委員会の事情聴取で財団側は当面の改革事項に「受験手数料2万3300円の見直し」を挙げた。独占事業のため、試験料・登録料はどうしても高め設定となり、受験者の負担が増す問題点が指摘されたためだ。

第2タイプには、ほかに美容師や理容師の国家試験・資格登録を行う理容師美容師試験研修センターや、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師について同様に行う東洋療法研修試験財団がある。注意すべきは、このように国民生活に関係の深い国家試験と登録業務を天下り公益法人がすべて押さえていることである。

第3のタイプは「指定を受けて審査業務を実施し、審査にかかわる収入を得ている法人」。これには、「原爆被爆者に対する援護に関する法律施行令」に基づく公費負担医療関連の診療報酬請求書の審査などがある。国民健康保険中央会がこれらの業務をすべて取り仕切る。

第4のタイプが「指定または登録により行われる研修・講習業務を実施する法人」だ。該当する指定制度は39制度あり、その制度のすべてで複数法人の指定が可能だ。
これら研修・講習は、クリーニング師とか産業医、清掃作業員、精神保健判定医の養成研修など多岐にわたる。たとえば産業医研修の場合、日本医師会が研修業務を行う。

第5のタイプは「国の登録を受けて機械の検査・検定業務を実施し、検査料等を得ている法人」。これは事実上の指定制度と言える。たとえば、ある工場がボイラーを製造した際に必要な検査を国の登録を受けた日本ボイラ協会が行い、他の民間業者は検査に参入できない。

このように国が法令で指定して独占的事業ができるように整え、公費を注ぎ込む一方で当の公益法人に天下る―この世界に例をみない官の仕組みで、多くの公益法人が委託費などを得て運営されてきたのだ。 筆者は前出の委員会で座長としてとりまとめ(→「厚生労働省独立行政法人・公益法人等整理合理化委員会」報告書)を行い「全指定法人は、指定根拠法令の検討を通して、その在り方を全面的に見直す」と提言した。
この改革の提言を受け、厚労省は指定法人に関して国家試験関連は7月、その他は10月に、法人ごとに検討会を立ち上げた。すべて今年度末までに結論を出す方針で検討が進められるが、どんな内容になるか監視が必要だ。