■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第146章 循環冷却と汚染水処理が難航/原発収束に大幅練り直し必要

(2011年6月27日)

東京電力福島第一原発事故から100日以上たったが、収束のメドは依然立っていない。東電が5月に事故収束に向けた新工程表を発表したあと、炉心溶融(メルトダウン)や原子炉損傷が確認された新事態を受け、政府、東電は収束法について再び大幅練り直しを迫られている。

格納容器に落下の可能性

5月17日発表の「当面の取り組みのロードマップ 改訂版」(新工程表)では、原子炉や使用済み燃料プールを冷やすため、1カ月前に公表した「水棺」(格納容器を水で満たす冠水作業)を断念し、建屋などに滞留する汚染水を処理して原子炉注水に再利用する「循環注水冷却」方式を選んだ。これにより、当初目標の来年1月頃までに「放射線量が大幅に抑えられている」状況に収束できる、とした。循環式冷却に替えた理由は、1号機の原子炉建屋内を作業員が確認した結果、1号機でも格納容器から冷却水の漏れが判明したためだ。

ところが、6月になって、経済産業省原子力安全・保安院は、メルトダウンが最も早く進んだ1号機では、地震5時間後には核燃料が入った原子炉圧力容器が破損していた、と発表。発生から数日中に大気中に放出された放射性物質の量は77万テラベクレル(テラは1兆)と、従来の推計を2倍強に上方修正した。
さらに政府は6月7日に国際原子力機関(IAEA)に報告した事故報告書で、1〜3号機では「溶融した燃料の相当量は圧力容器の底部に堆積している」とみられる上、この圧力容器の底も溶けて穴があき、圧力容器を内包する格納容器に落下して堆積している可能性も考えられる、とした。
この事態の進展で、先の新工程表の想定条件は大きく崩れたこととなり、収束計画の練り直しを余儀なくされた形だ。

石棺方式の選択も

ここで事故を収束させる上で、2つの大きな問題が浮かび上がってきた。
1つは、新工程表で定めた解決策「循環式冷却」は有効に機能するかどうかだ。新たに判明した原子炉内の状況は楽観を許さない。幸い、懸念されたようなメルトダウンに伴い水素と反応して起こす原子炉内の水素爆発は免れた。3カ月たって起こらなかった原子炉の爆発が今後、発生する可能性はかなり低くなったと見みられている。
しかし、問題は溶融した燃料が格納容器もジリジリと溶かしてしまうことだ。そうなると、圧力容器に続いて“最後の砦”である格納容器も破損し、穴があいてしまう可能性がある。2つの容器を3000度近くの高熱に達した溶融燃料が溶かし、穴をあけ、地下室の建屋に向け侵入していく構図だ。
これは、3月30日に元原子力安全委員長ら、かつて原子力の推進派だった専門家16人が、その緊急提言の中で懸念を表明した最悪の事態である。格納容器の爆発もしくは封じ込め機能の破損がもたらす、放射性物質の大量放出という悪夢である。

この可能性は、軽視できない。なぜなら、厚さ16センチの鋼鉄製の圧力容器を溶かし、穴をあけた燃料が、次に格納容器のわずか3センチほどの鋼鉄を溶かすのは、わけないからである。
政府報告書が指摘する通り、溶融した燃料が格納容器の底に堆積しているとすれば、既に容器を溶かして一部はさらに外のコンクリート内に浸蝕している可能性が十分にある。そうなると、格納容器の底に穴があいた状態で、配管の破損などと合わせて大量の水漏れを起こし、穴をふさがなければ冷却水を循環させる方式は機能しない。
この事態を受け、損傷部分の修理・補強工程や、コンクリートで原子炉全体を封じ込めるチェルノブイリ型の石棺方式を含め、急いで収束法を再度練り直さなければならない。その際は、最悪のシナリオを想定しておく必要がある。

汚染水の負の連鎖

2つめの問題は、増える一方の汚染水と、その処理に伴う高レベル放射性廃棄物の発生対策である。
原子炉と使用済み核燃料プールを冷却し続けるには、注水を続けるほかない。だが、注水すればするほど汚染水は増え続け、その処理を続けなければならなくなる。汚染水は6月半ば時点で約11万トンに上り、1日約500トンのペースで増え続けてきた。
この「負の連鎖」を断ち切り海洋流出を防ぐため、東電は米仏の汚染水処理システムの活用に踏み切り、6月14日から一部試運転を実施した。ようやく一条の光が射した形だが、16日には水漏れが生じ、運転を停止。18日には、稼働させた高濃度汚染水の浄化システムのうち、セシウム吸着装置の放射線量が想定よりも早く交換基準に達したとして、稼働から約5時間でシステムの運転を停止させた。
汚染水処理とそこから発生する大量の高レベル放射性廃棄物を処理するメドをつけることが、循環式冷却方式の見直しと並んで収束法の柱になるが、そのメドはまだ立っていない。

収束に向け、政府と東電が留意しておかなければならないポイントがもう1つある。それは、原発現場での作業環境の改善と、作業員のリクルート(新規補充)だ。政府は自ら前面に出て主導する形でソフト面を手当てし、作業を円滑に再生産していく必要がある。作業員の大半を東電の協力・下請け企業や派遣会社に頼っている現状では、作業員の被曝などによる健康被害と作業能率の低下をもたらす。
政府は海外から寄せられた現場作業への協力の意思に応え、原発専門家と共に専門作業者を広く海外の原発先進国から招くべきだろう。現に米スリーマイルアイランドの原発の設計に関与した米ミシガン大学のキンバリー・キアフォット教授は、事故の収束に向け、国際的な専門家の支援組織を発足させることを提唱している。欧州のリタイアした元原発作業者から「私たちの経験を生かしてフクシマの作業を手伝おう」というボランティアの動きも表明化してきた。
政府は、これを機に“開かれた姿勢”で、海外からの熱い支援の心に応えていかなければならない。