■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第145章 原発問題は天下り問題
(2011年6月16日)
天下りの慣行には、必ず巨大な利権がまとわり付く。巨大な利権の前には、必ず道理が通りにくくなる。
東日本大震災で最悪ランク「レベル7」の放射能放出事故を引き起こした東京電力福島第一原発。大津波への備えを怠ったための人災だが、背後に約半世紀にわたり「原発は絶対安全」という“神話”を国民に刷り込んできた「原子力村」の存在が浮かび上がる。そして彼ら「原子力村」の排他的結合を可能にしたのが、天下りと、巨大利権を手中にできる原発マネーであった。
原子力村の技術崇拝
今回は、この原発利権の巣「原子力村」に、読者をご案内しよう。
「原子力村」とは、政・官・業・学が一体となって原発建設を推進してきた体制を指す。村にはこの4分野から大勢の関係者、しばしばその分野で有力な著名人が集う。彼らはそれぞれ豊かな才能や専門知識を誇るが、一つの点で共通した観念を抱く。それは「原発は絶対安全」という信仰にも似た技術崇拝である。この技術崇拝は原発技術へのうぬぼれであり、裏を返せば大自然の力への侮り、畏怖心の欠如である。「原子力村」の村人たちは安全神話を信じ込み、いつしか批判や異論に耳を傾けなくなったのである。
そこで事故が現実に発生すると、「想定外」の津波規模だった、などと言い訳したのだ。
しかし、この心情は、何も「原子力村」に限られた話でない。会社でも「あれこれ考えず、さっさと取りかかれ」という上司はありふれている。筆者自身も中学生の頃、教師から「お前は質問ばかりしてうるさい!黙って習ったことを覚えろ」と、坊主頭を叩かれた記憶を思い出した。安全神話は、村人らにとって同様に「黙って信じるべき真理」なのである。
この自分たちの異常心理を、村人らは気付いていなかった。これが今回の大事故につながったのだ。
こうした“技術過信人間”の典型が、原発の安全性をチェックする内閣府原子力委員会の班目春樹委員長である。彼の持論は、原発の設計は想定できる範囲内で「割り切り」して進める必要がある、という粗暴なものだった。この延長で、平安時代の869年に起こった今回同様の巨大な貞(じょう)観(がん)津波は「想定外」と扱われたのである。
原子力安全・保安院の罪
この技術への傲りと共に、事故を招く要因となったのが規制省庁の天下りだ。電力会社への所管省庁からの天下り慣行が、仲間内の「なあなあ」の関係となり、安全チェックを甘くしたのである。ある意味、原発問題は天下り問題と言ってよい。
甘さが浮き彫りにされたのが、原発の安全規制・検査を担う原子力安全・保安院のなれ合いの“東電チェック”だ。東電は津波で全電源を失って炉心溶融(メルトダウン)を引き起こしていくが、非常用のディーゼル発電機を浸水しやすいタービン建屋の地下に設置していたことが命取りとなった。津波で発電機が冠水してしまったのだ。しかし、こうしたレイアウトの不備は同保安院がチェックすれば、事前に対応できたはずだ。結局、原子力安全・保安院は全く役に立たなかったのだ。
その“目なし”の背景に、同保安院が経済産業省の一機関(外局)で幹部人事も経産省が行い、幹部OBが東電に天下りを続けてきた実績がある。これでは独立した厳正なチェック機能は期待できっこない。
経済産業省は5月2日、OBの電力会社への再就職(天下り)状況を発表した。過去50年に68人が12社に天下り、現在は13人が11社の役員や顧問として在籍しているという。
うち東京電力には、副社長4人、顧問1人の計5人。天下り組の最終官職は、副社長4人が通産事務次官、通産審議官、経済企画審議官、経産省基礎産業局長。顧問は昨年8月に経産省資源エネルギー庁長官を退官後、5カ月足らずの今年1月に就任した石田徹だ。石田は原発事故後の4月、天下り批判を受け顧問の辞任を表明した。
経産省は所管の電力会社に対し幹部OBを注入し続けてきたのだ。巨額の原子力予算を経産省と並んで管轄する文部科学省。その文科省OBを合わせると、原子力関係業界への官僚OBの天下り規模は、さらに膨らむ。
以上は、しかし、天下りの実態のほんの一部に過ぎない。原子力関連の独立行政法人(独法)、公益法人への天下りを加えると「原子力村」の途方もない全容が見え始める。東京新聞のスクープによれば、これらの団体の理事、監事ら役員に就いた官僚OBは、17団体に36人(うち非常勤15人)に上ることが分かった。経産、文科両省のOBが多くを占めるが、独法・原子力安全基盤機構や独法・日本原子力研究開発機構、財団・原子力研究バックエンド推進センターには原子力安全・保安院の次長ら元幹部がいる。
予測結果の公表遅れが問題化した放射性物質の拡散予測システム「SPEEDI」を運用する財団・原子力安全技術センターをみると、国家公務員OBは4人(うち非常勤2人)。
これら天下りOBを含む役員報酬は、どのくらいか。東電の場合、会長、社長らトップ陣は7200万円の年収を手にしていたことが5月に判明した。東電のヒラを含む役員報酬の平均は09年度で年約3700万円。だとすれば、前出の石田顧問の予定年収は3000万円は下らなかっただろう。一般民間企業からみるとケタ違いだ。
問題は、東電の高給や天下り団体に振り込む会費や分担金を支えている収入源が、市民や企業が払う電気料金であることだ。われわれが毎月支払っている電気料金には、電気使用量分とこれに応じた税金(電源開発促進税)が組み込まれてある。平均的な電力消費家庭で月110円程度支払っているが、電気料金には含まれている税金の明細がないので、われわれは知らない間にこの税金を負担しているわけだ。
ともあれ、この電源促進開発税が国のエネルギー対策特別会計の懐に入り、主に原子力発電の立地対策に使われるのである。
ある経産省OBが、こう語った。「原発政策を推進する見返りに、歴代の幹部官僚が電力会社や関係団体に天下る。ここに利権構造が出来上がり、“持ちつ持たれつ”の広大な原子力村となったのです」。
この天下り・もたれ合い構造が、天災への「備え」をおろそかにして世界最大級の原発事故を招いたのだ。