■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第141章 「議員大幅削減」「公務員給与削減」/国の歳出カットを推進せよ

(2011年3月3日)

国の借金膨張が止まらない。国債、借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」は、昨年末時点で919兆円に上った。財務省によると、借金は増え続け、2011年度末には997兆円に達するという。 これは国内総生産(GDP)のほぼ2倍に相当し、戦費調達のため国の借金が膨らんだ、戦時の1943年当時(133%)を上回る戦後最悪の水準だ。
この財政危機下で政権が即刻実行すべきは、09年の衆院選マニフェストに謳った「国家公務員の総人件費2割削減」だ。それには自ら率先して議員の歳費(年間給与)を大幅にカットし、議員の定数(衆議院480、参議院242)をバッサリ減らす必要がある。

菅内閣の安易な対応

財政危機は、借金が増え続けることから生じる。すなわち、国の税収で国の経費が賄えずに、国債を乱発するところに原因がある。
2011年度政府予算案をみると、歳入予算92.4兆円のうち税収は40.9兆円に過ぎない。 予算の半分近い44.3兆円相当は借金(国債発行)で穴埋めする算段だ。
これに対し菅直人内閣の対応はどうか―。09年の衆院選の際、国民は「4年間は消費税を上げない。 国の総予算207兆円(特別会計を含む2009年度予算純計ベース)を全面的に組み替えし、税金のムダ遣いを徹底的に省く」と主張した鳩山由紀夫前首相に共鳴して「政権交代」を選んだはずだ。
ところが、期待された「埋蔵金」発掘は、財務省の言いなりになり、空振りに終わる。 昨年10月に行った特別会計の事業仕分けで、同省所管の外国為替特別会計が抱える、消費税8%分に相当する20.6兆円の積立金に対し、「埋蔵金」ではなく「本当は埋蔵借金だった」(仕分け人)と認定して引き下がってしまったのである。

そしていま、菅首相は消費増税・財政再建論者で知られる与謝野馨氏を「たちあがれニッポン」から引き抜き、経済財政相に起用する一方、旧大蔵省主計官出身の藤井裕久元財務相を官房副長官にすえ、消費税引き上げを柱とする「税と社会保障制度の一体改革」に向け走り出した。
マニフェストをホゴにする形で、国民の痛みを伴う増税路線に舵を切ったのだ。
財政再建は歳出カット、歳入増の組み合わせから成るはず。だが、まずは優先すべき歳出カットに踏み込まず、歳入増を図るにも経済成長による一般税収増ではなく、手っ取り早い消費税引き上げという「財務省のシナリオ」に乗ったのだ。

忘れた「国民の生活が第1」

「国民の生活が第1」とした民主党の衆院選マニフェスト。その「民主党の5つの約束」のうち「ムダ遣い削減」項目に、国の総予算組み替えと共に2つの政策が並んでいる。「国家公務員の総人件費2割削減」と「衆議院の比例定数の80削減」だ。 後者に関しては、「参議院については選挙制度の抜本的改革の中で、衆議院に準じて削減する」とあり、昨年7月の参院選マニフェストでは「参院定数を40程度削減」と明記した。
消費増税を決める前に、この公約実行こそが、民主党政権が国民の信頼を取り戻す道である。

国民の視線は、しっかりとして真っ当だ。
政府の国家公務員制度改革推進本部事務局が、昨年末から今年1月半ばまでの間、国民に対し「自律的労使関係制度の措置」に向けての意見募集を行った。今通常国会への法案提出に向け、民主党が公約した公務員労組への労働基本権(団結権、団体交渉・協約締結権、スト権)の付与に関し、パブリックコメントを求めたものだ。
結果は、年末年始をはさむ短期間に計217件の意見が寄せられ、その9割が「スト権付与に反対」を表明した。その中に、こういうのがあった。
「・・・そんなことより、「公務員給与の削減」と「国会議員の削減」を早急にお願いします」
「公務員にスト権を与えれば、公務員給与削減は実現しません」
「国家公務員は一般的な労働者とは異なります。憲法第十五条に「すべての国家公務員は全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではない」とあります。国全体のため、国民全体のために仕事をするのが、国家公務員です」
さらに、具体的な数字を挙げて公務員の人件費カットを迫る意見もあった。
「国家、地方公務員の給与総額は、現在年間約40兆円となっているが、改定を行い、年間20兆円に半減する」

公務員人件費40兆円は税収に匹敵

ここで指摘された、公務員の給与総額が「年間約40兆円」という数字は、おおむね正しい。公務員数は国家公務員が66.2万人、地方公務員295.1万人と、計361.4万人に上るとされ〈図表1 PDFファイル(国家公務員の種類と数 リンク先:総務省)〉、1人当たり人件費は年間ざっと1000万円とみられている。 しかし、図表1は国家公務員の規定に基づく分類のため、国会議員はこの中には含まれていない。国会議員および地方議員を含む地方公務員の特別職を加えると、国民の税金で賄われている公務員の総人件費はさらに膨らむからだ。
こうしてみると、公務員の人件費総額は国の年間税収にほぼ匹敵することが分かる。この巨大固定費を、リストラによる定数減と給与カットで大幅削減する必要がある。

同人件費の内容をみると、欧米の先進国に比べ格段に高額なのが国会議員の歳費だ。欧州よりも高額の米国の上院、下院議員でさえ年間給与は1人当たり17万4000ドル。1ドル=82円で換算すると、1426万円となる。
日本の国会議員は、歳費1552.8万円と期末手当(ボーナス)553.5万円を合わせ計2106.3万円(議長は計3532.2万円)、米国より5割近くも高い。しかも各議員は「文書通信交通滞在費」の名目で月に一律100万円、年間にして1200万円を受け取る〈図表2〉。領収書提出の義務はないから、議員にとっては“第2の給与”に等しい。 河村たかし名古屋市長(元衆院議員)によれば、「文書費」は国会図書館に頼めばタダ、「通信費」も議員会館の電話代はタダ、「交通費」にはJRや航空機の議員専用の無料パスがあり、「滞在費」も視察の場合は国の予算から出るほか、国会期間中に上京する議員には議員宿舎が与えられているから、ホテル代もかからない。
こういう特権に甘んじることなく、財政再建のため議員自らが身を切ることができるか。
みんなの党は先頭を切って昨年11月、議員歳費を日割り支給し、「月額3割カット、期末手当5割カット」を柱とする法案を参院に提出した。

菅首相は昨年10月の所信表明演説で「有言実行」を掲げ、国会議員の定員削減について「党内で徹底的に議論し、年内に方針を取りまとめたい」と述べた。しかし、党内の反発を食らい、取りまとめられないまま。
「税と社会保障の一体改革」論議では、自ら集中検討会議の議長を務めながら、国会議員の歳費・定数削減問題を議題にもしていない。その一方で、支持母体の公務員労組に「国家公務員の人件費削減」とは逆行する、給与決定の労使交渉を認める法案を通常国会に提出する構えだ。
その後、2月26日の同会議でようやく「各党で議員数や歳費の問題を議論している」とし、「内閣・党として同時並行的にやらねばいけない」と述べたが、果たして実行できるか。
いまや菅内閣の資質が、国民から厳しく問われている。




〈図表2〉
出所)参議院