■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第134章 URに対する事業仕分けのケーススタディ/追及に甘さ、弱さ

(2010年7月14日)

行政刷新会議は、特別会計の事業仕分けを10月に行う。 政権交代に向けた民主党の昨年のマニフェスト。そこで「国の総予算207兆円の全面組み替え」で税金のムダ遣いを根絶し、財源を創出する、と謳ってから約1年 ― 遅れに遅れたが、ようやく霞が関の裏帳簿、特別会計に仕分けのメスが入るわけだ。

劇場化手法の仕分けの影響力は大きい。この手法は今後も有効に活用すべきである。だが、同時に仕分けの内実をみると委託費の削減などに踏み込まず、追及の甘さが目立つ。
仕分けの厳しい基準作りに始まり、切り口、後処理をしっかり行って、仕分け結果を今後に生かさなければならない。

甘い切り口と詰め

大物法人の“抜け落ち”に続いて、切り口と詰めも甘かった。宝くじ関連公益法人に対した時のように、傍聴席から怒号が飛ぶほど仕分け側が厳しい追及を見せた場面もあったが、それらは例外的であった。全体として、省庁・法人側を横断的に切るような切り口は皆無だったため、仕分け効果はどれも個別的で限定的なものにとどまった。
多くの場合、追及の弱さ、甘さから何一つ具体的で確たる成果を挙げていない。
その典型が、独法の代表格、都市再生機構(UR)である。URは、政官の攻防の末、前自民党政権下で08年末に廃止が決まった雇用・能力開発機構と共に、シンボリックな存在だった。独法としての存在意義に絶えず疑問符がつきまとってきたからだ。
その全体像は、職員約4000人の大法人、超巨額の借金まみれ(有利子負債13.7兆円)、国からの多額の交付金(出資金9465億円、補助金・補給金813億円=08年度)、系列ファミリー法人との独法最大級の随意契約額(686億円=のちの随意契約削減目標の基準となる06年度)、系列法人ネットワークのスケール(関連公益法人9法人、関連会社28社=UR発表)と、超巨大な輪郭を持つ。こういう組織で国費を使って、現有事業を独法として行う必要はあるのか、というのが最大の争点であったはずだ。

ところが、仕分け側は明らかに準備不足のうえ、腰が引けていた。根本的な問いから始めずに、いきなり各論から、すなわち都市再生事業の市街地再開発事業をはじめとする個別事業の評価から入ってしまったのだ。 前出の「根本的な問い」とは、「独法でしか事業ができない理由があるか否か」を、UR側に問うことである。URは、自分たちしかできないとの主張を曲げないなら、それを立証する必要があるのだ。
この「そもそも論」から出発しなかったために、探せば、どんな事業にもある「存在意義」の軽重から審査に入るという手続きミスを犯してしまったのである。

原因は、仕分け人らの姿勢と事前の理論武装が弱かったことだ。仕分け人たちは、官僚の税金のムダ遣いと利権の独占を絶対に許さない姿勢で一致して臨み、官の抵抗を当然のごとく織り込んで切り込むべきであった。
さらに、これまでの行革上の成果さえも生かし損なった。仕分けに際しては、これまでに獲得した成果―都市再生機能以外の事業は民間委託・廃止(2001年12月の特殊法人等整理合理化計画)、保有資産は原則売却(07年12月の独立行政法人整理合理化計画)―を踏まえて進むべきだったが、むしろ後退した。都市再生事業を個別事業ごとに評価して、廃止どころか「事業規模の縮減・コスト引き下げの努力をしてもらいたい」と、URが喜ぶに違いない結論に落ち着いたのだ。 賃貸住宅事業に関しても「高齢者・低所得者向け住宅の供給は自治体または国に移行、市場家賃部分は民間に移行する方向で整理」という結論となった。URは国の政策実施機関だから、高齢者向けなどは結局はURがやるべし、ということになるだろう。実質的には「現状追認」と言ってよい。

国民の関心が高い系列ファミリー法人群との取引については、どう評価したか。仕分け人13人のうち、2人が正当にも廃止を主張したが採用されず、評価の結論は実質「先送り」となった。
蓮舫氏が取りまとめたコメントは「関連法人との取引関係の抜本的見直し」を求めながらも「競争性を高めコスト縮減、関連法人の利益剰余金の国庫返納を含め期限を定め検討し、早々に結論を得る」という、突っ込みの足りない温厚なものだった。これではせっかくの仕分けも、URの問題多い事業に「存続」のお墨付きを与えたに等しい。

結論は国交省に丸投げ

致命的なのは、肝心の改革の結論を、所管の国土交通省に丸投げしてしまったことだ。天下り元で同独法の“親会社”に相当する国交省から、いい改革案が出てくるはずもない。 取りまとめコメントには、結論の期限さえ設けられなかった。これでは国交省を決定権者とみなして自分たちの意見をごく短く具申したに過ぎない。その短めのコメントの中で、注目された随意契約減少へのURの取り組みに関しても、14兆円近い借金の返済と今後の資金調達方法に関しても、一切言及しなかった。UR側の不明朗な対応を黙認した、と受け取られても仕方ない。

URはその主張通り年々、随意契約を減少させてはいる。しかし、会計検査院の検査の結果、増えたはずの一般競争契約の多くは見せかけで、結局は元の系列法人が請け負っている実態が判明した。金額の大きい委託契約の大部分は、依然ファミリー法人群が手中にしているのだ。
ここは、少なくとも確認された業務委託の随意契約相当額については、来年度予算から削減すべきことを明示すべきであった。
仕分け作業の実質は、目くらましの政治ショーだった、と言うほかない。