■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第133章 大物や郵政法人が対象外/甘かった「事業仕分け」第2弾
(2010年6月7日)
4月と5月に実施された政府の「事業仕分け第2弾」は、独立行政法人(独法)と政府系公益法人の不明朗な事業実態を公開の場で突くことで、多くの国民に溜飲を下げる効果をもたらした。 が同時に、仕分け選定基準の不透明さと“大物法人”や郵政関連法人の抜け落ち、補助金凍結などに踏み込まない追及の甘さも目立った。仕分け結果を踏まえた独法と公益法人の制度改革が「次の焦点」となる。
基準があいまい
事業仕分け第2弾は、昨年11月に実施した第1弾の欠陥を乗り越えるべきであった。すなわち、「基準なき出たとこ勝負」の仕分けから、国の事業実施を任された独法と公益法人を相手に「天下りと補助金の関係」を軸にムダ遣いの実態を暴き、制度改革につなげることが期待された。
第2弾では、財務省の指南を受けずに自前の仕分け基準を打ち出すなど、一定の前進はあった。問題は、その基準が大雑把で具体性に乏しかったことだ。結果、問題の大物法人がことごとく仕分け対象から除外されてしまったのである。
筆者は、仕分け基準の不透明さを最大の問題と見る。たとえば公益法人の選定基準の場合、7つ設けられたが、うち1つは単に「天下りを受け入れている」とある。
ここは、もっと具体的に「理事長もしくは専務理事ポストに天下りを受け入れている」と、天下り範囲を絞らなければならない。なぜなら、天下り問題は法人の常勤トップへの天下り状況で、国の交付金の水準も決まるからである。
こうした甘くあいまいな基準のせいで、そこから抜け落ちたりこれを掻いくぐるような大物法人が続出したのも必然であった。いやむしろ、省庁の意向を汲んで故意に基準をぼかし、大物をマナ板に乗せなかったのではないか、との疑いも浮上する。
独法では、当初は仕分け対象に入っていた酒類総合研究所(財務省所管)や水産総合研究センター(農林水産省所管)が最終選考でなぜか除外された。公益法人では、批判を受けて“政治銘柄”の全日本トラック協会が土壇場で仕分け対象に加えられたものの、当初有力候補とされた電波産業会(総務省所管)は、最終的には仕分けから外された。同法人は、電波関連事業の委託を受け、仕分け選定7基準の1つ「法令で国から権限を付与されている」などにも該当するパワフルな財団だ。
結局、仕分け対象から除外された大物法人には、このほかに公益法人中資産規模が最大級の郵政福祉(総務省所管)、歴代の農水省事務次官OBらに専務理事などの「指定席」を提供してきた日本中央競馬会(JRA=農水省所管)、国土交通省や警察庁OBが歴代、天下ってきた日本自動車連盟(JAF=国交省所管)、介護需要と共に急拡大してきた、ホームへルパー養成で知られる天下り財団・介護労働安定センター(厚生労働省所管)などが挙げられる。
宝くじ収益金の天下り先分配を暴く
事業仕分け第2弾を総括すると、「功罪」が混じり合う。「功」は2つ。まず、これまで政府が改革の対象に取り上げなかった「特別民間法人」(特別の法律により設立された民間法人。特殊法人や認可法人から衣替えされた法人が多い。現在38法人)の3法人を仕分けに加えたことは評価できる。中央労働災害防止協会のような特別民間法人は、政府系公益法人と変わらないのに公益法人改革の対象外として、ぬくぬくと天下りの受け皿となって官の利権を温存してきたからだ。
「功」の2つめは、宝くじや競輪の収益金が全国の天下り公益法人に分配されてきた仕組みを初めて明らかにしたことだ。この複雑怪奇な分配金の流れについては、当の受益法人の関係者でさえ、知らなかったのである。宝くじの夢を追い毎年1兆円相当も買う国民にとって、宝くじの収益金のこのような不透明な分配は「寝耳に水」であったろう。
これに対し問題は5つ。第1に、会計検査院や政府の独法評価委員会のこれまでの勧告実績を無視して一からやり直し、同様の結論を出す「時間のムダ」があった。たとえば、独法の鉄道建設・運輸施設整備支援機構の利益剰余金1.3兆円超の国庫返納については、すでに会計検査院が検査で見つけ、08年11月に勧告している。
農業大学校の「廃止」も初めてでない。自民党政権時代の04年に政府の政策評価・独立行政法人評価委員会が「廃止」を勧告していた。にもかかわらず、放置されていたのである。
民主党政府は、仕分け以前にこれらのたなざらし案件を実行すべきだったのだ。
2つめの問題は、前述した大物法人の抜け落ち。そして3つめは、財務省所管の法人がほとんど対象外とされたことだ。
郵政関連法人は除外
財務省は、事業仕分けに初めから深く関与し、昨秋の仕分け第1弾では会場として自らが所管する独法の国立印刷局の講堂を提供する一方、仕分けの対象から巧みに外した経緯がある。
今回、財務省は表だった干渉を見せていないが、仕分け側への働きかけは明らかだ。行政刷新会議は独法仕分けの対象にマイナーな日本万国博覧会記念機構だけを選定したのと同様、公益法人についてもわずか1法人(塩事業センター)しか財務省所管法人を対象にしなかった。枝野幸男・行政刷新相が考える国立印刷局や造幣局を独法から財務省の直営の古巣に戻す案を公開で問うためにも、これらの2独法の仕分けは必要だったが、そうはならなかった。
問題の第4は、民主党の政策の柱となり、議論が噴出している郵政3事業の系列法人が、仕分け対象から除かれたことだ。「郵政」という火の粉を下手に扱うべきではない、と判断したのかもしれない。前出の郵政福祉などは、まんまと“検問所”を通過した。
問題の第5は、仕分けの全体に対する切り口の拙劣さが挙げられる。仕分け側は、天下りと随意契約の相関関係を重視したはずだった。であれば当然、随意契約もしくは偽装競争契約をしている独法、公益法人に対し同契約分に相応した来年度予算の凍結もしくは削減を打ち出すべきであった。さらに、随意契約をやめさせるため、違反者に罰則・公表規定を設ける会計法第29条の3(契約の方法)の改正を提案すべきであった。
しかし、新たな切り口を欠いたため、個別の限定的効果にとどまる仕分けに終わった。
公益法人の財産返還に甘さ
行政刷新会議は、仕分け結果からどのような成果を引き出すか―。2つの方向が考えられる。
1つは、マニフェストを実行するために緊急に求められている財源を捻出するための「埋蔵金」の確保。もう1つは、独法と公益法人のムダ遣いと天下りに対する制度改革である。
独法に対しては、すでに埋蔵金の利益剰余金などを国庫返還させることになり、約2兆円を政策財源に使える見込みだ。公益法人は民間法人であるため、国庫返納を命じるわけにはいかず、余剰資金を「国に移管(寄付)」の形をとらざるを得ない。
関東建設弘済会のような全国の建設8法人の場合、総額で「内部留保が165億円、正味財産が535億円」に上ることが仕分けの結果、確認された。
これに対し仕分けの判定は、「今年度中に不要な部分は国に移管」とした。もう一歩踏み込んで内部留保の30%を超えた金額(国は公益法人に対し指導監督基準に基づき、内部留保を事業費などの30%以内に留めるよう指導)および正味財産の5割を「国に移管」など、具体的な移管基準を予め策定しておいて、裁定すべきであった。
国費を使う公益法人は公益活動が本来の業務なのだから、収益事業から生じた過大な内部留保や財産は国に戻すのがスジだ。仕分け側が一定の基準数値を挙げて「国にいったん移管」を要求するのは、理に適っているだろう。
今回の仕分け作業で改めて痛感したのは、その公開手法の威力であった。民主党政府はこれを政治ショウで終わらせず、仕分け結果を生かさなければならない。