■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第129章 無駄な天下りの徹底根絶を/関心高まる独法仕分け

(2010年3月1日)

枝野幸男行政刷新相が独立行政法人(独法)、政府系公益法人を対象に4月にも「事業仕分け」第2弾を実施する考えを表明、行政刷新に向けた「次の一手」に関心が高まっている。予算のムダ遣いを洗い出す作業であると同時に、中央省庁が予算をセットして官僚OBを送り込んできた天下りの実態をも白日の下にさらす作業になるからだ。

日本特有の天下りシステムは、カネ(補助金、委託費など)を天下り法人(独法、公益法人など)に支出して法人の事業を支える見返りに、ヒト(官僚OB)を法人に天下りさせる構図となっている。政府の天下り規制を振り返ってみると、自民党政権時代には何一つ成功しておらず、規制といっても実質は「抜け道」だらけ。民主党政権になっても、この実態は変わっていない。

政権交代を果たした直後、鳩山内閣は2009年10月1日付で独法の理事などの役員への天下り、再任が予定されていた官僚OB42人の人事を凍結した。独法の役員人事のあり方を抜本的に見直すまでの暫定措置として、同9月に閣議決定したことを踏まえての措置だった。
政府はその後、凍結していた27法人49ポストを公募。選考の結果、再公募となった7法人9ポストを除く20法人40ポストのうち、官僚OBが全体の4割に当たる16ポストを手に入れた。この16ポストのうち大部分の11ポストは現役役員が公募に応じて再任されることとなった。民間出身者は6割の24ポストだが、中には公益法人OB、国立大学法人OBや生え抜きの独法出身者も含まれるため、純粋の民間出身者はさらに少ない。

こうした結果、「公募の形をとった天下り」が大勢となり、独法と所管省庁は大した打撃を受けずに天下り慣行の根幹部分を維持できたことになる。応募条件を厳しくすることで民間人を排除し、天下りの抜け道をつくった格好だ。

選考基準で抜け道づくり

天下りの抜け道づくりの典型例は、国際協力機構(JICA)の理事ポストだ。年収1647万円の待遇とされ、114人が応募したが、結局、財務省OBの小寺清氏(57)が選ばれた。
小寺氏は財務省国際局審議官などを務めた国際畑。前職は世界銀行・国際通貨基金(IMF)合同開発委員会事務局長兼世界銀行副官房長。キャリアとしては申し分ないが、応募条件を見ると出来レースであったことは疑いない。JICAは以下の5項目から成る資格要件を挙げ、その「すべて満たす方を募集いたします」としたのだ。
  1. 組織・運営に関わる管理職として5年以上の実務経験
  2. 財務・会計分野における5年以上の実務経験
  3. 開発途上国における民間投融資、経済・社会開発または調査・研究における5年以上の実務経験。3年以上の駐在実務経験
  4. 英語、フランス語、スペイン語など、開発援助実務に資するいずれかの言語による充分なコミュニケーション能力
  5. 心身ともに健康
―これでは、5を除けば、要件をすべて満たす民間人はどこを探してもいそうにない。初めから「選考から事実上、排除されている」と言ってもいい。
マイナーな独法の中には、民間人を理事に登用した法人もある。農林漁業信用基金(農水省所管)は、理事にトマト農家の自営業者を採用している。しかし、こうしたケースはまれだ。当初から独法役員の主役を「再任組中心の官僚OB」と定め、公募要件を厳しくした感は否めない。

公益法人外しは問題

前出の閣議決定には、さらに重大な欠陥があった。
それは天下り最多の公益法人が、天下り禁止の対象外とされたことだ。当時、政府が決めた「独立行政法人等の役員人事に関する当面の対応方針について」によれば、対象は独法と特殊法人に限定。独法の98法人、特殊法人の32法人計130法人の役員人事以外は、天下り規制対象から外された。そして独法と特殊法人の役員人事は今後、「独法等の抜本的な見直しや国家公務員制度改革の議論を踏まえた上で検討を行う」としたのだ。

このことは、2万4000余ある公益法人をはじめ、日本銀行、預金保険機構のような50の認可法人、農林中央金庫、中央労働災害防止協会のような特別の法律により設立された38の特別民間法人、さらにすそ野に広がる天下りファミリー民間企業群はことごとく規制対象外となる。これは大きな抜け道と言うほかない。
この結果、農林水産省の事務次官だった白須敏朗氏が公益法人(社団法人)の大日本水産会会長に駆け込んだようなケースは、今回の「就任取り消し・公募」の対象から外された。

抜け道はほかにもある。「嘱託」「出向」「非常勤」といった形で採ったり、民間企業の幹部を独法の役員に「天上がり」させるのと交換に、その企業の役員に天下りしたりするようなケースだ。
「嘱託」の身分で実質、高給で天下るケースは広がりをみせる。総務省の昨年12月の調査によると、年収1000万円以上の嘱託職員は、12独法で計24人に上ることが判明した。最多は経済産業省所管の11人。年収の最高額は1504万円。嘱託なのに常勤役員並みの高給を食んでいるわけだ。

重要なのは、彼らの「働かざる隠れ天下り」の報酬のすべてが、国民が納めた税金や保険料から「運営費交付金」の名目で支払われていることである。枝野行政刷新相は、こうした抜け道をすべて封鎖しなければならない。しかし、それには天下りを必要とする現行の国家公務員制度自体を根本的に改革する必要がある。
「事業仕分け」第2弾は、公金のムダ遣い削減だけでなく、天下りの根絶に向けた公開の「実態解明作業」ともなるだけに、どこまで切り込むことができるか注目したい。