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沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
<番外篇> 安倍政権の「言論統制」志向強まる/政権の自信・驕り背景に

(2015年7月15日) (山形新聞「思考の現場から」7月15日付掲載)

安倍政権の「言論統制」志向が、色濃く表れてきた。政治報道への注文は衆院選を前にした昨年11月頃から目立つようになったが、6月25日には安倍首相に近い自民党若手議員による勉強会で「マスコミを懲らしめろ」といった圧力発言が飛び出した。
背景に見え隠れするのが、「異論排斥」の思想だ。取り巻きのオトモダチには優しく甘いが、批判者や異論者は容赦しない。攻撃性が特徴だ。
菅義偉官房長官は「表現の自由は憲法で保障されている」と圧力を否定する。しかし、民主主義の根幹に「言論の自由と多様性」があるとの意識が薄弱で、憲法下で築いた「言論の自由」が抑圧されだしたのは間違いない。
政権の素顔がひょっこり表れたのが、5月に安全保障関連法案を審議する衆院平和安全法制特別委員会でのヤジだ。質問者の民主党・辻本清美議員に対し、安倍首相は自席で足を組んだまま「早く質問しろよ!」とせっついた。同委員会の委員長から注意され、詫びる羽目となったが、政権に対する支持率低下の一因となった。
政権は一体、どこへ向かおうとしているのか。

安倍首相の理念(根本的な考え方)から見てみよう。政権誕生以来の足取りを辿ると、ある重要な着地目標が浮かび上がる。
その着地点とは「国(政権)による情報の支配」である。強固な超国家主義体制の創建に、国の情報支配は欠かせない。
強行採決で成立させ、昨年12月に施行された特定秘密保護法がその決定的な手段となりうる。秘密法は行政機関の長(各省庁の大臣、長官など)が国の安全保障上の理由から重要秘密を「特定」し、国民や国外に漏れないように「特定秘密」を保護する制度だ。軍事、外交、テロ防止、スパイ活動の4分野で適用される。
ところが何を特定秘密にするのか、それを決める権限は行政機関が握る。秘密指定の期間は原則5年だが、5年ごとに延長できる。内閣の承認があれば30年を超え最長60年まで指定できる。さらに7項目の例外については国家官僚の裁量でこれを超えて永久に秘密にしておくことも可能になる。運用をチェックする監視機関は官僚で固めるなど、効果が期待できそうにない―。
ざっとこのような法律の仕組みだ。「官僚の官僚による官僚のための法律」と言われる所以(ゆえん)である。国民を情報から隔離し、盲目にさせる戦後最悪の違憲立法とも言われる。

安保法案は、この延長線上にある。これが憲法に反することは、憲法学者の多くが自民党が推薦して国会に招致した学者を含め「違憲」と判定しているのだから明らかだ。
安倍首相は米国議会で安保法案の成立を「夏までに成就」と約束した手前、絶対に通そうとするだろう。そのために、すでに国会の会期を9月27日まで大幅に延長した。今国会での成立を目指し、6月には維新の党最高顧問の橋本徹大阪市長と会食している。自民・公明に加え維新の一部を巻き込んだ強行採決を狙っているようだ。この先は、公約した「戦後レジームからの脱却」を究極的に果たすため、一路、憲法改正に向かうのは間違いない。
「クーデター」とも言われる安倍首相の一連の政治行動を貫く理念は、前述した「国による情報支配」だ。このままいくと、国が情報を支配して国民には都合のいいことしか知らせない恐るべき国家が、前途に待ち受ける可能性が出てきた。 政権・与党の自信と驕りを背景に、不都合な議会やマスメディアは不要だ、といった暴論がここにきて目立ってきた。自民党の勉強会で出た発言「マスコミを懲らしめるためには広告料収入をなくせばいい」(大西英男衆院議員)は、マスコミを黙らせる方法論に言及したものだ。

安倍政権の国家モデルは、もしかするとナチス政権かもしれない。ナチス政権は、議会から立法権を取り上げ、ヒトラーに与える全権委任法を1933年3月にドイツ議会で可決した。 麻生太郎副総理兼財務相は、2013年7月に講演でこう発言した。 「ドイツのワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。…あの手口に学んだらどうか」
自民党が2012年4月に発表した日本国憲法改正草案には「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は(現憲法と同様に)保障する」とある。ただし、「公益及び公の秩序を害する目的の場合」は認められない、と付記している。 活動目的の是非を判断するのは政権だから、憲法改正となれば国民の「言論・表現の自由」は政権の手に委ねられる。