■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
☆番外篇 『社会保険庁は即刻廃止せよ』
(2004年6月28日)
社会保険庁の機能とモラルは、既に崩壊している。自助努力での改革が望めないなら、廃止して根本から立て直すほかない。社会保険庁の機能マヒは誰の目にも明らかだ。保険料のムダ遣い、給付ミス、贈収賄事件など不祥事の多発、記録管理と広報のずさん、相談窓口への苦情殺到など、国民の信頼は地に墜ちた。
国民年金の未納はすでに4割近くにもなっている。問題は、事態をここまで悪化させたのに、当事者である厚生労働省と社会保険庁はこれまで責任を一切取らなかったことにある。いや、最低の義務であるべき年金財源の使い途の情報公開と説明責任すら果たさなかった。
とりわけ国民を憤慨させているのが、保険料積立金のムダ遣い(流用疑惑)だ。明るみに出た主な事例を挙げると、
・ グリーンピア(大規模年金保養基地)を全国13カ所で建設・運営したが、実質破綻し、全事業を廃止して施設を売却する。費用は年金財源から支出し、建設費だけで1914億円。財政投融資からの借金は金利を含め3508億円。
・ 厚生年金会館など「福祉施設」を267カ所で建設・運営(うち2カ所を廃止)。建設費だけで年金財源から1兆5700億円支出。運営費も補助金の形で年金財源から支出。
・ 全国40カ所で社会保険事務所の庁舎や公務員宿舎を建設したほか、社会保険事務所の庁舎(複数)を新増築し、その建設費用126億7000万円超を年 金財源から支出。(1998〜2002年度までの5年間)
・ 公用車247台を購入し、年金財源から4億1515万円支出。(同)
・ 社会保険庁長官交際費、職員の外国出張旅行費1億1229万円を年金財源から支出。長官の「県人会への参加費」1万円も交際費名目で年金財源から支払い。(同)
・ 社保庁の職員が主に利用する付属スポーツ施設で、ゴルフクラブ、ボールの購入費 をはじめ、テニスコート、バスケットボールコート整備などにかかった費用約1200万円を年金財源から支出。(98〜03年度までの6年間)
これらの情報は、厚労省が国会などで追及され、渋々「小出し」に開示してきたものだ。
そこからはっきりしたことは、1. これらの事業経費などが本来の目的である「給付」以外に使われたのに、そのことを国民に説明しなかった、2. 年金積立金を使った 事業の委託先などに年金官僚が大量に天下った(例えば年金福祉施設事業の委託先の 公益法人は全国で94法人、役職員数約3万人に上るが、うち少なくとも62法人の役員 に天下っている)、3. 年金ばかりでなく雇用保険、労災保険、健康保険の各積立金も 福祉施設事業などに費やされた ― などの事実だ。
新たな陰謀
今回、年金制度改革の過程で社会保険庁のでたらめぶりが浮き立ったが、本省の厚 労省こそが責任当局の「本丸」であることは言うまでもない。保険庁の長官は厚労省エリート官僚の「常設指定席」であるうえ、上層部には1、2年のサイクルで厚労省年金局などの幹部が行き来している。企画立案する厚労省年金局に対し、社保庁は社会保険事務所(265カ所)を全国に置き、実務を担うが、現業部門以外は厚労省の人事と一体だ。
その厚労省が懲りずに作った“新たな陰謀”ともいうべき法律が今国会で成立した。「年金積立金管理運用独立行政法人法」である。批判を浴びた特殊法人「年金資 金運用基金」を廃止して衣替えし、事実上延命させる法律だ。年金積立金をグリーンピアや住宅融資事業に注ぎ込んで大穴をあけた年金資金運用基金の看板を付け替え、約150兆円にも上る年金積立金の管理・運用する利権を確保し続ける狙いから国会 に提出されていた。国会混乱のドサクサにまぎれて通過し、同法人の06年4月の設立 が決まったのだ。
坂口力厚労相は、国会閉幕前日の6月15日、社保庁長官への民間人登用のほか、社保庁の民営化も視野に入れた改革案を検討したい、と発表した。しかし、これは、年金改革法成立後に、試算の根拠とされた出生率が過去最低水準(1.29)に急落した、との厚労省発表を受け、目前に迫った参院選向けに、急きょ取りつくろった「目くらましの改革案」であることは明らかだ。
社保庁は、まともに機能する第三者機関に作り変える必要がある。民主党は、社保庁を廃止して国税庁との統合を図り、新たに「歳入庁」を創設する案を提示している。それも一案だ。そして、こうした改革作業に際しては、年金積立金の使途や残高の実態の全容を厚労省に開示させることから始めなければならない。
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