■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第81章 税収の半分が公務員の人件費/官に限りなく支配される恐怖

(2005年1月27日)

 毎年12月末になると、翌年度予算の政府案が決まり、翌年度に向けた政策の骨格が立ち現れてくる。この中にむろん行政改革関連も含まれる。昨年は閣議で4年ぶりに「今後の行政改革の基本方針」(新行革大綱)を決めた。その最大の柱が「政府と政府関係法人のスリム化」だ。これに向け政府は「2005年度から5年間に国家公務員定員の04年度末比10%以上削減」を目標に掲げた。
 だが、この定員削減は「純減」でない。増員は別勘定にするなど、公務員の実数減少を意味しない、まやかしの数値目標だ。肥大化した政府のリストラには実質手を付けず、ひたすら国民に負担増を求める官僚主導政治の特性が、またしても浮かび上がった。
 「この国の実質」は、ますます巧妙に官に握られ、支配されてゆく気配である。重要な予算編成時の官民戦争で、民が被った「12月敗戦」を検証してみよう。

「家計の負担」急ピッチ

 われわれの暮らしはことし、どうなっていくのか―。まずは家計の負担増から追ってみる。
 1月から老年者控除の廃止(65歳以上一律50万円控除の廃止)、住宅ローン減税の縮小(所得控除を最大50万円から40万円に)で始まる。年金改革を先送りした上の昨秋来の厚生年金保険料引き上げ、配偶者特別控除所得税分の部分廃止のダブルパンチに、さらにジャブが加わる。
 4月は引き上げラッシュだ。国民年金保険料(月280円増)と雇用保険料の引き上げ(本人負担分が0.7%から0.8%へ、月収40万円で月400円増)、さらに自動車賠償責任保険(自賠責)の保険料(2年契約で最大年4千円増)、国立大学法人の年間授業料(標準額52万800円から1万5千円増)がアップされる。
 6月には配偶者特別控除の部分廃止(住民税で最大33万円の控除廃止)、住民税均等割の対象拡大(年収100万円超の妻に半額課税)と続く。9月に厚生年金保険料の再引き上げ(年収560万円で年に約1万円増)、10月に介護施設での食費・居住費アップ(自己負担分月3万円程度増)などと、連続パンチが家計を襲う。
 この「国民負担増」は06年に入っても所得税、住民税、年金保険料で繰り返される。07年になると、定率減税の全廃に加え、消費税5%からの引き上げが日程に上ってくる。家計の負担は時とともにずしりと重くなっていくのだ。
 これに対し、政府は歳出削減にきっちりメスを振るったのか―。

歳出改革なき予算案

 小泉首相は05年度政府予算案をメリハリのきいた緊縮型の予算だと自賛した。新規国債発行は、確かに4年ぶりに減った。だが、一言でいえば05年予算は景気回復による税収と超低金利でどうにか体裁を取り繕ったに過ぎない。実情は既定路線を行き、歳出面の構造改革は何一つない。「大きな政府」を支える国民の高負担、という構図は相変わらず続く。
 政府予算案が描く05年度末の財政の暗い風景は、次のようになる。
  1. 国の借金を示す国債残高は戦後初めて国内総生産(GDP)を上回り、戦時中と同規模のGDP比105%の538兆円(税収の12年分)に上る。
  2. 国と地方を合わせた長期債務残高も、GDP比151%の774兆円規模に達する。
  3. 一般会計歳入の42%が借金に相当する新規国債発行(34兆3900億円)に依存。
  4. 国債費(国債の元利支払い費)は前年度比5%増の18兆4422億円に上り、一般会計歳出総額の22%を占める。
  5. 他方、各省庁の権限で使う国の31ある特別会計の歳出総額は、04年度比24兆5522億円増の411兆9619億円にも上る。
 つまり、税収に薄日が差したものの、借金を積み重ねる苦しい台所事情が浮き彫りとなった。
 だが、それはあくまでマスコミが報道し、国民の目に比較的見える一般会計予算の話である。
 年金積立金のように所管省庁が管理・運用を行う特別会計のほうは、一般会計の5倍の予算規模なのに、その実態を国民は知らされていないのだ。
 特別会計は一般会計に入った税金を繰り入れて使ったり、年金資金とか雇用保険、道路整備財源のような特別財源を原資とする。だが、資金の流れなどの全貌は省庁の壁に隠され、外からは見えない。事実上、国会審議もされないから「官僚が自由に操る裏予算」(故石井紘基代議士談)とも呼ばれる。そして、この特別会計のディスクロージャーと改革が、遅々として進まないことにも注意を払う必要がある。
 借金漬けで危機露わな一般会計と、その五倍の規模に膨張した省庁管理の不透明な特別会計―これがこの国の財政の実態なのだ。

公務員定員減のウソ

 ともあれ、こうした中で政府は無駄のない「小さな政府」を目指して真剣に、政府と政府関係法人のリストラに取り組んでいくのがスジだろう。だが、現実は国民には負担増を課しながら、政府自らは見せかけだけの歳出改革でお茶を濁そうとしているのだ。
 その好例が、閣議決定された新行革大綱である。その重要部分の一つは、国民を欺く「ウソっぱちの作文」というべきものだ。
 前文はまことに歯切れがよい。
 「・・・行政改革の手綱を緩めることなく、更に積極的に推進することにより、簡素で効率的な政府を構築し、財政の立て直しに資するとともに、行財政運営の改善・透明化、国民生活の利便性の向上を図ることとする」とある。
 だが、スリム化の柱となる国家公務員の定員数(自衛官、国有林野事業などの現業職員を除く、中央省庁勤務の約33万人)について掲げた05年度から5年間に04年度末比で「10%以上削減」の目標数字は、定年退職者などの削減数を積算するだけで、増員分は入らない。増員分と合算して初めて「純減数」が出るが、肝心の「純減」の目標さえ設定していない。定員管理対象が国家および地方公務員全体(約430万人)の8%にも満たないうえ、定員削減数は「純減」ではないのだ。
 しかも、独立行政法人への移籍者は削減数に含まれる。早期退職を促して特殊法人や所管の公益法人に天下りさせる場合も、むろん削減数にカウントされる。
 ということは、純減どころか官業への天下り・移籍分を含めれば、税金で養う職員の数は実質「純増」になり得るのだ。計算上は削減数から増員数を差し引いた05年度の純減数は600人余りとわずか0.2%。だが、この純減分の中には独立行政法人などに籍を移した者や特殊法人などへの天下り組も入るため、実質は減っていないかむしろ増えている、と考えてよい。
 官はこうした数字のトリックを限定した範囲で使って、いかにも公務員の数を減らしているかのように見せかけているのである。
 こういう実態だから、政府が合理化のためIT化や独法化を進めるとしても、放置すれば官業の肥大化は手を替え品を替え進行する危険がある。

大規模公共事業にゴーサイン

 もう一つ、見逃せないのが、厳しい財政事情の中で整備新幹線や関西国際空港二期工事などの大規模公共事業にゴーサインを出したことだ。これは小泉首相の自民党への妥協を物語る。
 政府・与党が新規着工を正式決定した整備新幹線は、新青森―新函館(北海道)、富山―金沢車両基地(北陸)、武雄温泉(佐賀)―諫早(長崎)の3区間。財源問題ではJR北海道の北海道新幹線開業で、接続先のJR東日本の東北新幹線の乗客も増える「根元受益」で増収が見込まれる、としてJR東日本にも建設費負担を求めたことからJR東側が猛反発した。関係者との議論がないまま“見切り発車”したためだ。
 従来同様、需要調査を十分行わずに大型プロジェクトに踏み切った結果、いずれ発生し続ける赤字を穴埋めする巨額の国民負担増の可能性を残した。政権浮揚のため将来の世代にツケを先送りした、といってよい。
 規制緩和と官業の民間開放を狙う規制改革も、官僚の抵抗を受けて骨抜きにされた。こちらのほうは、官僚への妥協だ。規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)が昨年12月に小泉首相に提出した答申は、当初案から大きく後退した。
 例えば、市場化テスト(官民競争入札)。社会保険庁、ハローワークの事業所の〈全業務〉を05年度のモデル事業の対象とし、〈06年度の本格実施〉に向け05年度に法制度を〈整備する〉、とした当初案は、それぞれの〈一部周辺業務〉のみをモデル事業とし、〈時期を明記しないまま〉本格実施へ法制度整備を〈検討する〉、という答申内容に変わった。同会議は小泉首相の諮問機関だが、肝心の首相はついに決断することなく、省庁への譲歩を重ねる成り行きに任せたのだ。ある総務省幹部は「いかにも小泉流の改革の形」と筆者に語った。

国が人件費で倒産する日

 このように、政府のスリム化実現の見通しはつかないまま、公務員人件費は異様に膨れ上がった。財務省と総務省によれば、国と地方を合わせた05年度税収見込みは77兆3259億円。これに対し総定員法(行政機関の職員の定員に関する法律)が対象とする中央省庁の国家公務員(約33万人)の総人件費(月給のほか諸手当、退職金を含む)が年間5兆4774億円、地方公務員(約320万人)が同22兆2885億円の計27兆7659億円(04年度予算)。
 これだと対象公務員の税収に対する人件費比率は36%だ。ところが、国家公務員を自衛官や日本郵政公社職員(それぞれ約28万人と約29万人=03年度末)などを加えた総数の約110万人ベースでみると(図参照)、地方公務員のと合わせた公務員の総人件費は、複数の官庁筋によれば40兆円近くにも上る。
 そうなると、国と地方を合わせた税収の実に50%に達する。国民の納めた税金の半分が、公務員の人件費に費やされることになる。
 しかも、特殊法人や認可法人の準公務員や独立行政法人の職員の場合も、国の予算で人件費を支給しているから、これを足すと同人件費比率はさらに跳ね上がる。加えて、行政から事業の委託を受ける公益法人や地方の第三セクターの多くで、職員の人件費が補助金の形で賄われている。政府とその傘下にすそ野のように広がる政府関係法人の職員の人件費が、国税と地方税の半分を吸い上げるのだ。
 この国が膨らみすぎた公務員の人件費ゆえに、事実上倒産する日が来ても不思議でない。民間企業なら売上高に対する人件費比率が50%に上れば、そもそも企業活動が成り立たない。製造業の場合、人件費の対売上高比率が20%になれば、経営の危機ラインとされる。税収の半分が公務員の人件費というのは、どんなホラー小説よりも恐ろしい現実だ。  だが、この恐るべき真実を、政府はまだ公式に明かしていない。




(出所:行政改革推進事務局ホームページ)