■Online Journal NAGURICOM 沢栄の「さらばニッポン官僚社会」 |
第224章 AI戦争の悪夢
(2023年8月31日)
AI依存戦争の恐怖
戦争の風景が変わってきた。サイバー攻撃の効果に加え、ウクライナの戦場でドローンなどAI兵器の威力が際立っているためだ。しかし、戦争のAI依存が深まれば、破壊の規模とスピードが増し、一気に絶滅戦争に発展する危険性を増す。
人類の戦争がAIが命じた核・生物・化学兵器による絶滅戦争となる悪夢は、もはやSF小説のシナリオではなくなった。このままでは高い確率で勃発する恐れがある。ありうる最悪のホラー戦争の粗筋を描いてみよう。
まずはAI戦争の始まりであるサイバー攻撃の現状から入ろう。米マイクロソフト社は5月、中国政府が支援するハッカー集団「ボルトタイフーン」が米国のサイバー・インフラに浸透し、多くの企業から情報収集を進めている、と警告した。ボルトタイフーンは2021年に作戦を開始。米ニューヨークタイムズ紙によると、米情報当局はこのサーバー侵害状況を中国のスパイ気球が米国上空に飛来し撃墜された2月頃には把握していた。
ハッカー側の狙いはおそらく将来生じる軍事危機に際して「米国とアジア」の間で活用されるはずの通信インフラを破壊することにある。浸透工作は、東太平洋のグアム島の米軍事施設と米国内施設を結ぶ通信インフラに焦点を当てているからだ、とマイクロソフトは指摘する。
グアム島米基地は、台湾有事に即応する米軍の最前線基地。ハッカー側は民間ネットワーク・セキュリティーシステムのForti Guardに変名を使って潜り込み、そこをベースに官民情報通信インフラへのアクセスを進めているという。
これに対し中国外務省は「(マイクロソフトの主張は)故意の誤報で政治プロパガンダ」と反発した。が、米側の危惧を裏付けるように7月、中国によりグァムの通信インフラにマルウェア(悪意のあるソフト)が仕掛けられていたことが発覚した。
<画像> ウクライナ軍が使う監視用ドローン 〈スカイラボ〉小峯弘四郎氏提供
サイバー戦拡大
サイバー攻撃は、2020年の米大統領選に向け、ロシアがトランプ共和党候補を勝利させるため米世論工作に使ったことが判明している。サイバー戦で先行するロシアは、ウクライナ侵攻でも繰り返し実施したが、電子戦能力を高めたウクライナと支援する西側のサイバー反攻を受け、「サイバー空間戦争」が泥沼化した。今年6月にはロシア領に隣接するリトアニアがロシアからサイバー攻撃を集中的に受け、政府機関と民間企業が通信不能などに陥った。ロシアのハッカー集団「キルネット」が声明を出し、ロシア西部の飛び地カリーニングラードへの貨物列車の通過禁止措置を解除するまでリトアニアへの「攻撃続行」を明言した。攻撃法は、大量のデータを相手に送り付け、マシンの正常な作動をマヒさせる「DDos攻撃」。これで通信、エネルギー、金融セクター、空港を狙い撃ちした。
カリーニングラードはNATOとEUに加盟するリトアニアとポーランドに囲まれロシアから孤立する地形で、軍事緊張を招きやすい。キルネットは日本に対しても昨年9月、「日本国政府全体に宣戦布告する」と通告、DDos攻撃を東京メトロや大阪メトロに仕掛けた可能性がある。
サイバー空間戦争は進化しつつ拡大している。AI依存が深まり、監視と攻撃に使うドローンが空軍戦力の主力となってきた。
新BC兵器も登場の恐れ
ロシアが苦境に陥れば、ドローンを使った核使用の懸念が深まる。だが、核ばかりでない。AIで生成した毒性の強い致死性分子を使った新BC(生物化学)兵器でロシア側が局面打開を図る恐れも出てきた。
使用される毒物の中には、例えば神経剤VXがある。国際的な生物兵器及び化学兵器禁止条約で使用を禁じられているが、北朝鮮では国家が開発を支援し、政敵の暗殺に使っている。金正恩総書記の異母兄・金正男が2017年にマレーシアのクアラルンプール国際空港で暗殺された事件。通行人を装った若い女性2人に襲われ、顔面にVXを塗られて毒殺された。
医薬品開発AIを悪用すれば、大量殺りくが可能な致死性分子を有害物質などから生成できることが判明している。これに要する開発技術は高レベルだが、国家や軍隊組織なら作ることも使うことも可能だ。ロシアの暗殺者がよく使う神経剤ノビチョクは、旧ソ連時代に開発された。
AIが作成した致死性分子には、既存の毒物には類似点がほとんどないものやVXより毒性の強いものがあり、国際的な監視リスト外の相当な危険物質といえる。ウクライナの戦場でこれらを使った新BC兵器が試される恐れがある。その際、北朝鮮の協力が考えられる。
中国政府は公式にはロシアへの軍事支援は行わないとしているが、実際には中国の民間会社を使ってロシアにウクライナ向けを30倍ほども上回る大量のドローンを供給していると報じられた。ウクライナ戦争は既にAI戦争に突入し、破壊の様相を変えているのだ。
戦争の即発性・連鎖性・絶滅性強まる
AIを使った自律型致死兵器システム(LAWS)が戦場に導入されれば、戦争の「一触即発性」、一撃で相手方のAI応戦を呼ぶ「一撃連鎖性」、さらに破壊の連鎖が超高速で進む「超高速絶滅性」の戦争に拡大する可能性が一気に高まる。
この恐るべき予想は、AI戦争で起こりうるとみられる戦争の様相変化だ。そうなる最大となりそうな要因は、AIと人間の倒錯関係にある。AIに技術管理者が支配される、つまり言いなりになってしまう関係から、絶滅戦に至るメカニズムが生じうる。機械がトリガーを引くプログラミングの欠陥から「誤作動」を起こすシステム暴走の可能性が、これに加わる。いずれもヒューマンエラーを生む「人間の脆弱性」がもたらす。
管理不全の危険が生じるのは、AI兵器システムを人間の管理者が統御しているはずだが、そのタガが外れてしまうためだ。戦争の危険が迫った場合、AIシステムは情報を基に自動的に反応する。そして何らかのサインを得て「戦闘開始」とアルゴリズムが判定すれば、管理者は決められたAIの「次の一手」に対応を進めることは確実視される。
留意すべきは、その際管理者は通常、全体状況は分からないまま機械のアルゴリズムに従って動くとみられることだ。相手方のAI管理者も同様にAIのアルゴリズムに従い即応すると考えられる。AI管理者は全体状況を判断する立場になく、情報も得ていないため、自分の仕事に集中するばかりとなる。双方の管理者とも業務上、AIの指示と手順に従って動くのは必然だろう。緊急事態下に“待った”をかける可能性は限りなく低いのではないか。先制の一撃が、次々に反応の連鎖を呼ぶシナリオが現実味を帯びる。
このようにして「フラッシュ・ウォー(瞬時の戦争)」が緊張下で突発し、絶滅戦に発展する可能性は否定できない。世界は今、この差し迫る危機のさなかにある。