■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第195章 脱炭素社会実現へ/欠かせぬ 政官民挙げた決意

(2021年3月24日)

国際協力が不可欠な地球温暖化対策が、4年ぶりに力強く動き出した。菅政権は昨年10月、2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を宣言。2050年実現目標で先行する欧州連合(EU)を追った。 次いで今年1月には就任したバイデン米大統領が、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰を表明、日欧米が「脱炭素社会」の実現に向け、一気に足並みを揃えた。

破壊的創造

トランプ米前大統領の「アメリカ第1主義」による国際協力への拒否と、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)による各国の混乱から宙に浮いていた地球温暖化対策だが、ようやく協力できる国際環境が整った。 温暖化の元凶、二酸化炭素(CO2)の排出量で世界最大の中国は、20年6月、脱炭素2060年実現の目標を公表している。
経済産業省は首相の宣言を受け、昨年12月、目標を達成するための「グリーン成長戦略」を発表した。野心的な戦略だが、その方向性は正鵠を得ている、とも評される。
脱炭素社会の2050年実現は、この戦略の成否にかかる。しかし、戦略のハードルは相当に高く、国の財政支援は米欧に比べ格段に少ない(基金2兆円)。その実行プロセスが、激しい「破壊的創造」を引き起こすのは必至だ。 産業・雇用構造は大転換を余儀なくされる。優れた政治指導力に加え、新たに生まれ育つ新産業への財政的・法的支援、構造転換に伴う失職者への手厚い転職・起業支援など長期の総合的施策が必須となる。

洋上浮体式

グリーン成長戦略の実行過程で、最も大きな影響を受ける分野が、二つある。産業中、最大のCO2を排出する電力産業とEV(電気自動車)化が進む自動車産業だ。ここで、矢面に立つ電力産業を取り上げてみよう。
脱炭素社会とは、石炭、石油、天然ガスから成る化石燃料を主に自然エネルギーである再生可能エネルギーに転換することを指す。2019年時点でエネルギー供給に占める化石燃料の依存比率は日本87%、米国83%、EU74%、中国85%。 日本の比率は主要国の中でも高く、頼みの再エネの全発電量に占める比率は最低のわずか18.5%。
再エネで先行するEUは、20年に再エネによる発電量シェアが38%と、化石燃料を初めて上回った。脱原発を決め、再エネ普及が進むドイツでは、再エネシェアは45%に達している。日本は11年の福島原発事故後、原発再稼働にこだわり、再エネ普及に出遅れた。
グリーン戦略では、2050年時の再エネ比率目標の参考値を「50%〜60%」と高く掲げる。戦略は、目標達成の「切り札」に、洋上「浮体式」風力発電を挙げる。 浮体式は海上に風車を浮かべる方式で、欧州のような遠浅の海辺が少ない日本にふさわしいとされる。事業規模は数千億円、部品数は数万点に及び、関連産業への波及効果は大きい。

四方を海に囲まれた日本に向いている発電に見えるが、経済産業省は戦略発表の翌日、「フクシマ復興」を目指し、福島・楢(なら)葉(は)町沖で2016年から実証実験していた洋上浮体式風車2基の撤去を表明した。 全部で3基作ったが最大の1基は18年に撤退。稼働率が3割台以下と悪く採算が取れない、との理由だ。他の国内の洋上風車も撤去が続き、まだ商用化できていない。これらの失敗の原因を徹底検証して今後の取り組みに生かさなければ、成功は覚束ない。 洋上風力発電技術は海外では、発電量で世界一の英国やデンマーク、ドイツなどが先行する。これらの先駆的な海外事業者から学び、手を組み技術・資金協力して商用化を急がなければならない。

水素燃料

脱炭素に向けたもう一つ重要なカギが、燃やしてもCO2を出さず、日本が技術的な強みを持つ水素とアンモニア燃料の活用だ。グリーン戦略は、新たな脱炭素電源と位置付け、水素・アンモニア発電の比率目標の参考値を10%程度とする。
戦略は、「2030年代半ばまでの純ガソリン車の販売禁止と電動車への転換」目標も打ち出した。その延長上に、水素を燃料とする燃料電池自動車(FCV)や、充電ステーションが少なくて済むFC鉄道、FCバス・トラックの普及を狙う。 水素が燃える時に出るのは水だけ。有害な窒素酸化物(NOX)も出さないクリーンエネルギーだ。ただ激しく燃えやすい上に、コストが相当に高い。
この扱いにくい水素燃料の実用化に向け、関係各社は一斉に動きを早める。産業ガス世界最大手の仏エア・リキードと手を組み、世界最大級の液化水素生産プラントの日本国内設置を20年代半ばに目指す伊藤忠商事のようなケースも出てきた。
海外先進企業との連携は欠かせない。だが、脱炭素目標の達成に何より必要なのは、政官民を挙げてやり抜く決意であろう。