■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第185章 国際世論に背を向ける安倍政権/長期政権下、化石化する国へ

(2020年1月16日)

国際世論の潮流に背を向ける安倍晋三政権の内向きな閉鎖性が際立ってきた。
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇が訪日した11月下旬。教皇は東京電力福島第一原発事故の被災者と面会した際「将来のエネルギー源について、勇気ある重大な決断が必要だ」と述べた。 原発事故を念頭に、原子力エネルギー政策の見直しに触れたのだ。日本政府は、エネルギー基本計画で2030年度の電源構成に占める原発の割合を「20〜22%」とする目標を掲げ続ける。 国内の世論調査の全てで人々の過半数が原発に不安・不信を表明し、再稼働に同意していないのに、政権は動かない。

ローマ教皇はこれに先立つ長崎、広島でのスピーチで「核兵器から解放された平和な世界は、あらゆる場所で数え切れない人が熱望している」「戦争のために原子力を使用することは、犯罪以外の何ものでもない」と訴えた。 これに対し安倍首相は教皇との会談で「日本とバチカンは共に、平和、核兵器のない世界の実現、貧困撲滅、人権、環境等を重視するパートナーである」と述べるにとどまった。具体的な原子力政策への取り組みには言及せず、中身のない空疎な“お題目発言”に終始した。

12月4日、戦乱が続くアフガニスタンで農業用水路の整備や医療に力を尽くしてきた中村哲医師が銃撃され、殺害された。国内外から犯行を非難する声、追悼する声が相次いだ。 国連も特別に声明を出し、「アフガニスタンで最も弱い立場にいる人たちを助けることに人生の大半を捧げた人間に対する無分別な暴力行為だ」と中村さんの功績を称え、犯行を強く非難した。 折から、さいたま市で開かれていた来日中のロックバンド「U2」コンサート。バンドのボーカル、ボノさんの呼びかけを受け、観客がスマホのライトをキャンドル代わりに灯し、追悼の曲が歌われた。

アフガニスタンでは、現地語で中村さんの死を悼む数多くのメッセージがSNS(交流サイト)に投稿された。中には「街や通りに『なかむら』という名前を付けたい」という声もあった。 首都カブールの空港でアフガン政府の追悼式が行われ、アシュラフ・ガニ大統領自らが軍兵士らと棺を担いで帰国を見送った。
ところが、安倍政権の反応は冷ややかだった。
12月8日夕、中村さんの亡骸が成田空港に到着した時、安倍首相も茂木敏充外相も他の閣僚も誰一人として出迎えなかった。ポツンと姿を見せたのは、外務副大臣だけ。
生前、中村さんは現地での支援活動についてのインタビューで、日本国憲法九条に触れ「敵対条件を作らないというのが憲法の精神」と語っていた。憲法改正の実現を公言する安倍政権が、中村さんを憲法擁護者とみなしていたのが冷遇の本当の理由、との声が市民団体から漏れた。

12月、スペイン・マドリードで開かれたCOP25(国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議)。小泉進次郎環境相が11日、演説で期待された石炭火力発電の廃止に言及しなかったことから国際的な批判が広がった。 世界の環境団体でつくる「気候行動ネットワーク」は、地球温暖化対策に後ろ向きな国に贈る「化石賞」を日本を含む3カ国に贈ると発表。 他方、気象変動の被害を2018年にひどく被った国のワースト1位は西日本豪雨に見舞われた日本だったとする調査結果をドイツの環境シンクタンク「ジャーマンウォッチ」が、COP25の会場で明らかにした。被害最大国・日本の地球温暖化対策への異様な消極姿勢が浮き彫りとなった。

温暖化を押し上げる石炭火力について、欧州各国やカナダが将来の全廃を次々に打ち出している。今やトランプ政権の米国を除き「脱石炭」が主要国の潮流になってきた。
フランス2021年までに廃止を公約したのをはじめ英国、イタリアが2025年までに、オランダとカナダが2030年までに廃止すると発表。褐炭・石炭へのエネルギー依存度が飛び抜けて高かったドイツ(1990年当時、6割近い発電比率)も、2038年までの廃止を決めた。ドイツは福島第一原発事故を受けた「脱原発」に続く「脱石炭」。安全と環境対策を推進し、ドイツの発電に占める再生エネの比率は四六%と、昨年に初めて石炭などの化石燃料(40%)を上回った。

だが、日本政府はこの新しい流れに加わらずに傍観を決め込み、石炭火力設備の新増設や新興国への輸出増計画の廃止に今なお踏み切らない。
長期政権下、日本はまさしく凝り固まって変化しない「化石賞」にふさわしい国になったかに見える。