■Online Journal NAGURICOM
沢栄の「さらばニッポン官僚社会」
第110章 道路特定財源で国交省のやり放題/ねじれ国会で、道路の“真相”続出

(2008年4月2日)

  ねじれ国会のお陰で論戦が活発化し、道路行政の「隠された真相」が相次いで表面化してきた。道路特定財源から特別会計に入る巨額の税金を、国土交通省の職員宿舎の建設やマッサージチェア、スポーツ用具の購入に充てていた構図は、年金保険料を同様に使った社会保険庁とウリ二つだ。国民の世論に逆らって、政府与党と全国の知事が、道路特定財源に上乗せされている暫定税率の堅持を主張する背景に、「道路利権」に絡む国交省・道路族議員の圧力があることは疑いない。

道路中期計画のデタラメ

  筆者は、国会で法案が審議されてきた道路特定財源のあり方を巡り、一般国民側からみて腑に落ちない疑問が二つある、とみる。
  一つは、なぜ政府・与党は暫定税率の維持にこだわるのか。
  二つめは、なぜ知事をはじめ地方の首長の圧倒的多数が教育や環境、福祉ばかりか道路にも使えるはずの一般財源化に反対し、暫定税率と道路特定財源の堅持を求めるのか―である。
  国会での論戦が長期化するなかで、せめてもの救いは国税、地方税合わせ総額5兆4000億円(08年度予算案)に上る道路特定財源の問題が明るみに出てきたことだ。
  その最たるものは、1. 道路特定財源のうちガソリン(揮発油)税などの暫定税率をさらに10年延長する法案(租税特別措置法改正案)の根拠となる道路整備中期計画の事業規模59兆円のデタラメ、2. 道路特定財源の使い途(みち)のデタラメ、の2点。いずれも国交省が主役の実行当事者だ。政府・与党は国交省の役人のやっていることを正当化し、後押ししている構図である。
  「10年間59兆円」の積算根拠について額賀福志郎財務相は「個別に(査定を)きちっとやっているわけではない」(2月20日衆議院財務金融委員会)。
  財務省の予算チェックがいい加減なことが判明したわけだが、計画立案に当たる国交省が道路整備事業費の積算根拠となる交通量予測を多めに偽装した疑いも、衆院予算委の審議で浮上した。
 民主党の馬淵澄夫氏の追及によると、国交省は交通量の予測をする上で、2005年に実施した最新の調査結果ではなく、交通量が多く事業費が膨らむ1999年の調査結果を用いていた。05年調査のデータを使った場合、2020年の交通量予測は99年調査より8.2%少なくなり、事業費も縮小する。

特別会計を財布代わりに

  もう一つの問題は、道路特定財源を管理・運用する道路整備特別会計(道路特会)のカネを国交省が自分の「ポケットマネー」のように使っていたデタラメだ。国民が納めた道路財源の税金(ガソリン税、自動車重量税、石油ガス税、軽油引取税、自動車取得税など)を議会の承認を得ることなく、好き勝手に使っていたのだ。
  例えば、国交省の職員宿舎の建設に約25億円(07年度)を充てたほか、03年度から06年度までに野球やサッカーのユニホーム、ボールなどに約235万円、マッサージチェア約450万円、カラオケセット約97万円、アロマセラピー器具約4万8000円相当を同財源で購入した。
  道路啓発活動のための「道路ミュージカル」の上演費に、なんと約5億7000万円。うち03年8月に名古屋市で開催され、わずか300人しか参加しなかったイベントでは、同財源から約6110万円が支出されたという。
  道路特定財源の大金はまた、国交省OBの天下り先公益法人にも惜しげもなくばらまかれている。国際建設技術協会に対し06年度に海外道路事情の調査報告書三冊作成に9000万円超も支払った。追及した民主党の細野豪志氏によると、報告書の内容はインターネット辞典「ウィキペディア」を丸ごと引用したり、文章もぎこちない。
  職員旅行の費用も道路特定財源で丸抱えだ。公共用地補償機構が過去5年分だけで計2000万円超を職員旅行費に使うなど、計22法人が同財源で職員旅行を賄った(06年度で流用額は計約7000万円)。 これは犯罪行為に相当するのではないのか。しかし驚くべきは、政府・与党に行政の責任を問い直そうとする気配さえ、みえないことだ。福田政権は官僚の「カイライ政権」と言われるが、「隷属政権」のほうがふさわしいかもしれない。
  「官僚隷属政権」にとって、道路特定財源が削られるようであってはならない。暫定税率の廃止によって、打ち出の小槌である道路特定財源が総額2兆6000億円も減ってしまうような事態は、絶対に避けねばならないのだ。

腰砕けの全国知事会

  民主党は当初、暫定税率を全廃してガソリンの値下げ(約26円=消費税分を含む)につなげるべきだと、「大衆受け」を狙った主張をしていた。しかしその後、「道路特定財源を一般財源化するのが改革の本丸」(岡田克也・同党副代表)と、匕首(あいくち)を問題の中心部に向けだした。明らかに、国会対決で議論を深め、本質論に入ってきたのだ。
  新たに起こった問題は、民主党がせっかく暫定税率の廃止と道路特定財源の一般財源化を求めたのに、地方の首長が猛反発したことだ。  全国知事会など地方六団体は2月、都内で緊急決起集会を開き、暫定税率と道路特定財源の堅持を訴えている。国交省の格好の広告塔役を演じる感があるのが、宮崎県の東国原英夫知事だ。地方がまともな改革に拒否反応を示し、政府・与党と一体化している有様なのである。

  なぜ、政府・与党ばかりか地方の首長までも、一般財源化に反対するのだろうか―。
  答えは、国交省道路局、与党と地方の道路族議員、地元建設業者の集合的圧力のせいであろう。なかでも国交省道路局に「特定財源の維持に反対なら、来年から“箇所づけ(「整備地域・区間の選定」を指す官僚用語)”しないよ」と言われれば痛い。地元の道路インフラ整備に支障を来すからだ。族議員は道路局を支援する。建設業者には政治献金や選挙応援でお世話になっている・・・
  片山善博・前鳥取県知事の回想によると、03年頃、農林水産省から農道整備で補助金を使うよう働きかけがあった。拒否反応を示すと、同省幹部から「県とのお付き合いを考えさせてもらわなければならない」と告げられたという(朝日新聞2月23日付け)。

公益法人に過剰な内部留保

  今回の道路特定財源を巡る国会論戦は、道路特会の問題をも浮かび上がらせた。同特会の巨額のカネが国交省所管の天下り先公益法人に流れ、前述したような壮大なムダ遣いの実態が判明したのだ。しかも、系列公益法人は受注を独り占めしていたことも浮き彫りにされた(500万円以上の契約は100%随意契約=06年度)。
  この主務官庁を頂点とするアンブレラ型の「官業ネットワーク」は、なにも国交省に限らない。ほぼすべての省庁が同様の天下りネットワークを持ち、公金で事業利権を保障している形だ。だが、国交省の場合、道路特定財源の規模の巨大さからそのカネが注がれる所管の公益法人に毎年、過剰な余剰資金(内部留保)が発生しているのが特徴だ。
  東京新聞の調査報道によると、道路特会から国交省所管の独立行政法人(独法)と公益法人に、06年度に補助金など計1888億円が支出されたが、これら法人に同省から1200人余りが天下りし、事業独占から法人の内部留保は05年度決算ベースで総額527億円にも上っていた(3月2日付け)。

  道路特会からの支出先は興味深い。道路公団民営化で誕生した独法の日本高速道路保有・債務返済機構が、支出額最多の1044億円超、第2位がやはり独法の都市再生機構の136億円超。かつては特殊法人が補助金などの最大の「受け皿」だったが、今では独法に置き換わっている。
  次いで支出額3位に財団・道路保全技術センターの81億円超、以下、10位まで公益法人が占める。同紙によれば、日本高速道路保有・債務返済機構は、特会から支出されたカネを首都高速と阪神高速の建設用に民営化会社に無利子で貸し付け、都市開発機構は市街地整備に使った。
  他方、公益法人なのに事業から生じた内部留保額のトップは、日本不動産研究所の42.2億円超。次いで関東建設弘済会の40.1億円超、道路保全技術センターの39.6億円超と続く。総務省は内部留保について「公益事業の適切かつ継続的な実施に必要な程度とすること」を指導監督基準でうたう。その上で、内部留保を事業費、管理費、不可欠な固定資産取得費の合計額の30%以下に留めるよう指導しているが、いずれの法人もこれを上回った形だ。
  このことは公益事業の枠を踏み越え、収益活動で法外な利益を得ている実態を示す。主務官庁の国交省は監督下にある公益法人の指導監督基準を無視し、違反を承知で道路特会から事業資金を注ぎ込んでいた疑いが濃厚だ。

独法に隠された「埋蔵金」

  こうした道路系公益法人や独法の内部留保は、「霞が関埋蔵金」の一種といえる。自民党の財政改革研究会(与謝野馨会長)は2月末、特別会計や独法の資産・積立金について「不要な資金は国債償還などへの活用がルール化されている」として、埋蔵金は存在しない、との報告書をまとめた。近い将来の消費税率アップを狙った布石だ。自説を改めて主張した形だが、成長重視派の中川秀直・元自民党幹事長はその翌日、自らを「花咲じいさん」になぞらえ、「正直じいさんが掘るとお金が出てきた」と述べて「埋蔵金不在説」を否定した。埋蔵金論争が再燃する兆しだ。
  「埋蔵金のありかと埋蔵量」について、筆者は後日、改めて論じることにしたい。ここで指摘しておきたいのは、特別会計の余剰資金が積立金と剰余金の形で毎年計上されており、ここに巨額の「埋蔵金」が眠っているが、さらに特会資金の受け手の独法と公益法人にも「埋蔵金」が潜んでいることだ。
  独法にあっては、1. 必要以上の土地・建物といった実物資産、2. 必要以上の積立金や利益剰余金、貸付金などの金融資産・債権 ― がまず、疑わしい。

  会計検査院によると、特殊法人から独法に移行した旧特殊法人グループの検査対象25法人をみると、積立金だけで245億円(05年度末)あることが判明した。利益剰余金も05年度までの3年間に、例えば鉄道・運輸機構が1352億円、水資源機構が870億円を計上している。鉄道・船舶建設や旧国鉄の清算事業などを複合経営する鉄道・運輸機構の場合、06年度連結ベースで2479億円もの純利益を上げた。これは東芝の実に1.8倍、三菱電機の2倍(06年度)に相当する高収益だ。これらも「埋蔵金」の一種といってよい。前出の道路系公益法人の内部留保と合わせ、国庫への返還・一般財源化を求めるべきものだ。
  もう一つ、独法の“使い残し”のカネ(運営費交付金債務残高など)にも着目 する必要がある。これは、省庁が特別会計の余剰資金を目立たない独法に移している疑いがあるためだ。
  例えば、道路特定財源が余剰資金を独法の日本高速道路保有・債務返済機構に移し、同機構が民営化会社に無利子で貸し付けるケース。これは「埋蔵金」の“移転”と考えてよいだろう。  道路特定財源論争を引き金に、「埋蔵金」論争がいよいよ本格的に幕を開けようとしている。