『南極メルトダウン』に寄せられた反響の一部をご紹介します。
*書評・新刊紹介
- 山形新聞(2019年3月3日付)
アメリカの地球科学者、W. ブロッカーが、先月18日死去した。1970年代初頭「地球寒冷化」説が主流を占める中、彼は75年、二酸化炭素(CO2)の増加に伴う温室効果による地球温暖化を主張。
事実その翌年から地球の平均気温は上昇し、今日、その主原因は化石燃料の大規模消費により排出されるCO2であるという見解で、ほぼ確定している。
本書は温暖化の現状と地球環境の激変に関し、元気象予報官を中心に、研究者、国際石油資本、日米政府関係者など、各立場からの主張や思惑を軸に展開する環境小説。
同時に、現在に限りなく隣接した近未来小説でもある。著者はジャーナリストであり、政府や大企業の腐敗に関する小説も多く手がけ、本書でも記者としての取材スキルと実体験が縦横に生かされている。
現在、北極海周辺の温暖化が注目されているが、筆者は南極の温度上昇に着目する。気温上昇により南極大陸を囲む棚氷が崩壊、「支え」を失った氷河の大規模かつ連鎖的な崩落。
巨大質量の氷塊が連続して落下することで大津波が発生。海抜の低い地を襲い、日本では太平洋岸の主要都市が津波の直撃を受ける。氷の融解で海抜は10メートル以上上昇するため、そのまま水没…。
こうした「最悪のシナリオ」に、個人はいかに対応すべきか。現在私たちは日常的に豪雨による洪水や年々更新する最高気温などの異常気象を体験している。
同時にパリ協定や国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告、あるいは米トランプ大統領の非環境政策など、情報としては知っている。だが、どこか他人事のように感じてはいないか。自分と地球を結びつける想像力が欠けていないか。
本書では、登場人物の家庭での会話と、地球科学の最前線、産業界や政府といった、かけ離れた(と思いがちな)世界間の往復により、地球規模の環境問題と日常生活をつなげる想像力を与えてくれる。
石油資本の策謀の箇所など消化不良な点や、専門用語を会話文中で多用するため不自然な言い回しも散見されるが、筆者の地球の未来に対する思いを、地球温暖化にも匹敵する熱量として受け止めることができる作品である。(評者は東北公益文科大学准教授・渡辺暁雄氏)
- リベラルタイム(2019年2月号)
2018年現在における最新の環境データに基づき、近未来に起こりうる大災害とそれに立ち向かう人々を描いた本書。著者はジャーナリストの北沢栄氏だ。
本書は形式としてはあくまで小説だが、小説中で用いられる科学的なデータは全て最新の研究に基づいたもの。著者の得意とする明確なエビデンスを用いた「ジャーナル・ノベル」ともいうべきスタイルだ。
「人類最悪のシナリオはいよいよ最終章に入っている」。小説内では資本主義経済の暴走によって進行する地球温暖化と、それによって引き起こされる南極融解という大災害、それに挑む一人の気象予報官に国際石油資本の利権の闇が立ちはだかる。ページをめくるたびに具体的根拠を伴って突きつけられる真実の数々に、我々はただ戦慄するのみである。本書で描かれる出来事は全て「明日のリアル」なのだ。
*Amazonレビューより
- 小説の形をとっているが、著者のジャーナリストとしての豊富な知見が存分に詰め込まれている一冊。主人公は人間の行き過ぎた経済活動によるCO2の増加によって、地球温暖化は喫緊の課題と受け止めている。一方、アメリカや日本の産業界は、経済成長一辺倒で、環境問題は二の次どころか、新たなエネルギー利権を目指して欲望を膨らませる。その間にも温暖化による天変地異が進み、ついに運命的な事態へと進展していく。早急な対処を行うべき政府はあてにならない。そこで主人公やその周辺の人物がとるべき行動に焦点が当てられる。いささか解説過多のところはあるが、十分な緊迫感を味わうことができた。それと同時に、現在私たちがどう生きるべきか?も考えさせてくれる。エネルギーは生きるために必要ではあるが、それは再生可能エネルギーで地産地消を目指すべきであろう。(by Kindleユーザー氏)
- 北極海の氷が急速に溶けているというニュースは耳にするが、南極はそれほどでもないと思っていた。しかし、この本を読んでその考えが甘いということに気が付いた。
いまや地球に住む住民が地球人として全員で温暖化を考え、生活を変えていかなければならない局面に入ったようだ。
本書の275ページに「人類は成功するたびに傲慢になる癖があったが、自信と傲慢とが昂じて環境に重大な脅威を与えるようになった」とあるが、その通りだと思った。
トランプ大統領の言葉の端々からもわかるように、資本主義の行き過ぎたシステムと人間のエゴが地球を痛めつけてしまったという筆者の意見に、共感を覚える。
もしかしたら、ごく近い未来に”住めない地球”になってしまうかもしれない。(by M.T.氏)
- 日本やアジアには、地球温暖化問題についての文学が必要だ。小説はそのもっとも効果的な手法であろう。類似した手法にテレビドラマを挙げることができるが、私たちに自由な思索の時間を与えてくれるという点では、小説が勝っていると思う。
この小説は、次の点で極めて優れている。まず日本やアジアに暮らす一人一人が、自分たちの身のまわりだけでなく世界各地で生じている今日の地球温暖化問題の射影を正確に把握できること。そして、本書が地球温暖化問題の研究書ではなく、小説という媒体であるからこそ、その問題の背後にある経済活動や政治的な力学との結びつきを明確に見出すことができる。つまり、地球温暖化問題を地球温暖化問題としてだけ捉えるのではなく、今日の人間社会の問題全体を考えるより大きな土俵の上に引っ張り出すことに成功している。この2点において、本書は出色の出来栄えと言える。
本書を読み、地球温暖化問題が単に地球環境と人間活動の収支の問題ではなく、より複雑で根深い問題だとあらためて気づかされた。しかし読後感は悲観的ではなく、むしろ明るい。本書で示されたように、地球環境問題を私たちの社会の問題だと認識することは、この問題を解決してゆく確実な一歩である−著者が力強くそう述べていると感じた。(byヒーロク氏)
- 地球温暖化がこのまま進行すれば、地球大破局は避けられない―。本書を読んで、この恐怖を心底感じ、ゾッと鳥肌が立った。
道半ばで終わった京都議定書を受け、地球温暖化の抑制にようやく本腰を入れた国際社会は2015年のパリ協定で画期的な合意に達する。だが、1年後に登場した米トランプ政権は「地球温暖化はまやかし」と断じ、石炭やシェール開発に舵を切った。パリ協定からも離脱、合意の実現は風前の灯火となる。
本書でいう「化石燃料勢力」の国際石油資本らが背後にうごめくのは明らかだ。なにやら日本の「原子力ムラ」を思わせる陰の抵抗勢力である。地球温暖化の脅威を知った主人公は気象庁を自主退職して環境ジャーナリストとして独立、温暖化の真実を暴こうと奔走する。が、折から南極大陸の温まった海水に洗われて溶解した氷塊は次々に崩壊、大津波を引き起こす。
実際に明日起こってもおかしくない近未来スリラー小説だ。なぜなら、各国がGDP成長至上主義を信仰し、グリード資本主義が横行する中、地球大破局はもはや時間の問題だからだ。しかし物語は最後に、主人公らの奮闘で希望の光がほのかに差し込み、読み手を安堵させる。(byポテトチョップ氏)
*読者の反響
- …私自身、10年ほど前の2月にアイスランドに行った時、氷河の先端が次第に後退しているのを目の当たりにしました。また、カナダのコロンビアアイスフィールドでも同様に感じました。しかし、南極の氷河棚氷の温暖化による崩壊の危機については全く知りませんでした。
ということはメディアでも取り上げられることが少ないからではないでしょうか。其の点、着想が凄いと思いました。
NHKの自然を対象とした番組をよく見るのですが、地球温暖化に的を絞った番組は、豪雨対策が多く、其の根本要因にまで遡り、警鐘を鳴らすものは少なく、今回の『南極メルトダウン』の内容に迫るものは無かったように思います。私自身大いに啓発されました。…(福岡県、男性)
- ジャーナル・ノベルのすごい迫力に圧倒されました!特に最終章「南極メルトダウン」に引き込まれました。とてもリアルで、ドキュメンタリー映像を観ているような感覚でした。これからの新しい小説〈ジャーナル・ノベル〉の旗手に拍手!(愛知県、女性)
- 『南極メルトダウン』読了しました。
地球規模の大災厄といわれても、雲をつかむような話なので実感をともなわないまま読みすすんでいきましたが、途中から、物語る力に押されて最後まで読まされました。
読んでいまして、この「地球大破局」、日本の「財政破綻」の道筋と似ているなと思いました。事前の警告の無視、問題の先送り、トランプのパリ協定離脱、安倍政権の赤字急増と100兆円予算、政権に蝟集する利害関係者、遠ざけられる温暖化支持派、骨抜きされる再建派―などです。…(千葉県、男性)
- …温暖化は、重要な問題でいいテーマです。マスコミでも、北極はニュースになるけれど、南極はあまり採り上げられないので、目の付けどころが大変いい。私も、ここで使われている数字は殆ど知らなかったので、頭の整理に大いに役立った。近未来に南極不安が顕在化するという、問題意識は正しいのではなかろうか?(茨城県、男性)
- 読み終えました。特にp275〜279までの地球温暖化と環境破壊に導いた資本主義の罪について「私の言いたいことを全部言ってくれた!」と思いました。
米国が現在世界中に広がってしまったグローバル企業最優先主義を生み出し、国内のひどい格差、国家間のひどい格差を生み、それに世界の先進国が追随しました。60年以上前の米国の大企業主の収入は今とは比べものにならない位の少なさで世界に還元していましたが、相続税が5 million dollarsまで非課税という現在の米国では、金持ちは金持ちのまま、貧乏は貧乏のままという社会に変わってしまいました。…(米ニューヨーク、女性)
- …御高著の完成度・専門レベルの高さに驚いております。私なら、専門外のテーマは、自らのレベルアップが無理と最初からあきらめます。それを北沢さんはあきらめないで取り組み、努力されて結果をだされるので、ただただ驚き、感心しています。
特に、今回も自然界・自然科学の問題に社会性・人為性の視点を見失わずに、しっかり話を展開されますので、自然科学者が筆を執っているに違いないが、随分社会意識のしっかりした自然科学者だという印象を受けるほどです。気象予報官が主役になり、南極発の津波の大洪水や南極の崩壊などの話が展開される創作や研究書を、もともと社会科学者の北沢さんが取り組めるはずはないと信じていますから、完成された御著書が不思議でなりません。しかも、短編ではなく大著になっているのも驚きです。それほど、今回の御高著は驚きです…。(東京都、男性)
- 一気に読んだ。面白かった。よくこれだけの情報をまとめたね。ジャーナル・ノベルの次作に期待。(東京都、男性)
- …脱炭素社会。学習させて頂き、目覚めさせて頂きました…。(富山市、男性)
- 今年の「災」の字と併せ、感慨深く読みました。すばらしい内容です。(横浜市、男性)
- 今年の夏の暑さや豪雨で、地球温暖化の問題がよく分かりました。このまま暑くなっていけば人間が暮らせなくなる、生物の多くは滅びる。南極の氷が解けるのは時間の問題ですね。国際的に一致協力して温暖化防止に取り組まなければ、取り返しがつきません。(川崎市、男性)
- ・・・私は環境問題に関心があり、原発問題もその一つですが、その意味で興味深く読ませて頂きました。南極大陸と北極域についても地図を見ながら知識が増えました。
資本主義システムと人間の本性から地球温暖化は必然であると書かれてあるように、サクソン社のような動きをする会社が必ず出て来ると諦め気味です。が、経済成長しながら温暖化防止をする方法を見つけ出さなければ、人類は滅亡へ向かってただ走るだけでしょう。
CO2排出量の少ない自然エネルギーの活用が正しい方向と分かっていても、GDP成長目標が達成されないとなれば、国や企業は化石燃料や原発の利用に方向転換すると思います。我々が原始時代とは言わないまでも、エネルギーの消費を極端に少なくし、GDPの達成目標を気にしない国民に生まれ変わらない限り地球温暖化は防止できない…我々が決定的な対策を先延ばしにした結果、子孫に“地球メルトダウン”の恐ろしさを味わせる罪を作り続けているのです。結局、我々は国や企業と同じ私利私欲で生きているわけで、天に唾する国民で救いようがないと反省し、落胆しています。
しかし、本著で指摘したこうした警告により、何らかの対策が取られれば地球を永らえさせることに繋がるのですから、こうした努力を続けなければと思います。(広島県、男性)
- いつも感心しているのですが、難しい問題を小説の手法で門外漢にもすらすら理解できたような気にさせてくれる。すばらしい筆力です。おかげさまでいろいろ勉強させてもらっています。(川崎市、男性)
- …北沢栄にだけしか描けない小説の魅力、『南極メルトダウン』。胸をドキドキさせています。人類への警告…最新の科学データをもとに書かれたのですね。(豊川市、女性)
- …最近の政治状況(トランプ、安倍さんなど)に嘆き悲しんでいます。現在強い関心を抱いているのは、第一に温暖化の防止、第二に原子力発電の廃絶、第三に格差の解消、の3点です。
「ジャーナル・ノベル」というジャンルの開拓者ですね。ますますのご活躍を祈ります。(神奈川県、男性)
- トランプのせいで、COP24の雲行きも怪しくなりました。政治家はもっと勉強しなければ。地球の住民はたまりません。(東京都、男性)
- 今年の気候異常はいつもの年よりもひどかった。本当に温暖化が不気味に進んでいる。その理由が、本書でよくわかりました。(東京都、女性)
- 気温も暑くなっているが、海の変化も怖い。ダイバーとして肌身に感じている。夏の海水温はぬるま湯になってきた。サンゴは日本近海ではもう生きていけないだろう…。(静岡県、男性)
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