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矢野直明・林紘一郎
『倫理と法―情報社会のリテラシー』
産業図書■本体1900円+税
「情報社会のリテラシー」としての倫理と法




 現代社会が抱えるさまざまな問題を、倫理と法の観点から考察した本。企業のセキュリティ専門家や大学、専門学校で情報関連科目を学ぶ学生ばかりでなく、情報社会のあり方に関心をもつ多くの人びとが、それぞれの現場で、具体的な問題に直面したとき、よりよき解決策を見つけるための参考として役立つことをめざしている。



 現代は、物理的な現実世界と、インターネット上のデジタル情報環境(=サイバー空間)が相互交流する社会であり、サイバー空間の影響を受けて現実世界でこれまで当たり前だった考え方や、合理的だった社会秩序にほころびが見えています。これはまさに革命的変化と言ってよく、新しい事態に対応する個人の生き方や、社会システムの再構築が急務になっています。
 たとえば、本屋の店頭で実用情報を満載したレストランガイドをぱらぱらめくって、興味深い店の名前と場所、場合によっては電話番号を覚える(あるいは、あわてて外に出てメモする)という現実世界の伝統と、デジタルカメラでそれを写してしまうというサイバー空間の行動様式とでは、何がどう違うのでしょうか。
 また、ケータイではなぜドタキャンしやすいのでしょうか。昔は、待ち合わせの時間と場所を事前に決めて、誤差の少ない落合が成功しないと、もう一度最初からやり直さなくてはなりませんでした。しかし、ケータイとGPSがある今日では、「あいまい検索」ならぬ「あいまいデート」が可能です。しかし、その裏には、「あいまい約束」が成り立つことになって、約束するという行為が希釈化しています。私たちはデジタル情報の便利さを享受しつつ、何か大事なものを失っているということはないでしょうか。
 いま技術、法、倫理などさまざまな分野にまたがるやっかいな問題が頻発しています。その解決には広い分野の協力と、それを統括する長期的でラディカル(根源的)な視点が必要でしょう。技術がもたらした問題を技術で解決しようとするのは当然ですが、技術はときに暴走します。強制力を備えた法は、技術が切り拓く新事態に対する環境整備や違法行為の取り締まりに威力を発揮しますが、新しい事態には対応が遅れがちで、時として技術の新しい可能性をつぶす恐れもあります。また情報のような無体の財に関する法体系は、長い年月をかけて積み上げられてきた有体物の法体系に比べると未整備です。だから最後は、個人一人ひとりの生き方、言わば倫理に期待せざるを得ない部分も残りますが、リテラシーや倫理といったこれまでの常識も、すでに変容や崩壊を余儀なくされています。(以上、「この本の基本的立場」から抜粋)。



 第1部は、「『情報窃盗』という概念と倫理性」、「『自己情報コントロール権』と個人情報」、「『言論の自由』と情報仲介者の責任」、「検索システムの利便と危険」、「セキュリティのジレンマ」、「子どものインターネット・アクセス」など10の講義からなる。教育法として注目される「ケース・メソッド」の手法を採用し、各講は「設問」と「考え方のヒント」で構成されている。具体的なケースごとに、それに関連する基礎知識を提供しつつ、どのような考え方や行動が可能なのか、複数の選択肢を提示することを心がけたためである。
 第2部は共著者が、情報社会に関するそれぞれの見解を、「現代IT社会の特質とリテラシー」、「情報セキュリティをめぐる倫理と法」として論じている。


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