「サイバーリテラシー」の教科書、ついに完成!!
◇
サイバー空間には制約がない
サイバー空間は忘れない
サイバー空間は「個」をあぶり出す
(サイバーリテラシー3原則)
著者が数年来提唱してきた「サイバーリテラシー」という考えをまとめた総論と、それをもとに現代社会の諸問題を扱った各論からなる。2000年に刊行された『インターネット術語集』(岩波新書)が「術語」本位に編纂されたのに対し、本書は「サイバーリテラシー」という考えを軸に、現代社会を読み解こうとしたものと言える。
現代社会は、薄い雲の層のように地球を覆うサイバー空間の“存在”を無視して語ることはできない。現実世界はサイバー空間によって大きく変容しており、だからこそ現実世界をより快適で豊かなものにするためには、サイバー空間の特徴を理解し、それによって現実世界がどのように変容しつつあるかを考察しなければならない、と著者は言う。
「サイバーリテラシー3原則」ともされているサイバー空間のこの特徴が、現実世界にかつてない変容を迫っているわけである。
第一部が総論、第二部はサイバーリテラシーを通して見た現実世界の変容の姿である。取り上げられている対象は広範囲で、目次を以下に紹介しておこう。
第一章 サイバー空間に翻弄される子どもたち
第二章 情報の流れが錯綜する「総メディア社会」
第三章 ユビキタス社会と監視社会はコインの両面
第四章 コンピュータまかせの「すばらしい新世界」
第五章 みんなで守るセキュリティとモラル・ハザード
第六章 著作権システムの土台が揺れている
第七章 頻発する内部告発が意味するもの
第八章 新しい出会い系=サイバー+リアル
ここでは、出会い系サイトをめぐるさまざま事件、日本各地で頻発する集団自殺、大きな反響を呼んだ佐世保小学校事件をはじめ、新しい情報発信の道具、ブログの隆盛とメディア環境の激変、流通革命を起こすと喧伝されているIC(RFID)タグとプライバシー問題、増殖する防犯カメラなど、多くのトピックスが紹介され、あわせてその意味が考察されている。さらに、国際情勢を揺るがすイラク戦争とメディア、日本人人質事件やイラク人虐殺、著作権問題とWinny事件、2005年4月から本格施行される個人情報保護法、内部告発者保護をうたった公益通報者保護法なども取り上げられ、ニュースの背景にある本質を理解するのに役立つように工夫されている。
第三部では、未曾有の激動期を生きる私たちはいま何を考えなければならないかが問われ、著者の考えが紹介されている。著者が重視するのが新しい時代に対応する「情報倫理」の構築であり、その際念頭に置くべき心構えとして、以下の4点が指摘されている。
【1】現実世界にしっかりと軸足を置く
【2】 サイバー空間に風穴をあける
【3】 コンピュータにまかせない領域の確保
【4】すべてを「個」レベルから捉えなおす
今後の日本人の行き方を「世間」の変容との関連で論じているのも注目される。ここでは日本のブログの特質にもふれている。
第四部「それにしても何とかならぬか」は雑誌に連載されたコラムの再録で、著者の日本情報社会批判にもなっている。
|