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北沢栄
『公益法人』
岩波新書■本体価格 700円
この本を読めば、KSD(中小企業経営者福祉事業団)事件はなぜ起こったのかがよくわかる。

 本書によって公益法人の問題点を列記すると、
  1. 官僚の天下り先になっている。というよりも、天下り先確保のために各省庁が率先して公益法人を作り上げている。
  2. 主務官庁の判断だけで設立できるために、本来は国がやるべき仕事を安易に公益法人化するなどし、結果的に「見えない政府」が肥大化している。
  3. 補助金、委託費などの名目で、国民の税金が野放図に、不透明に使われている。
  4. 検査・検定などは独占事業のため競争原理が働かず、しかも天下り官僚の高給(人件費)を捻出するために、サービスは高価なものとなり、法外な支払いを国民に強いている。
  5. 「公共の宿」など民間でも十分やれる事業を行い、民業を圧迫している。
  6. 情報公開がなされず、「官の隠れた聖域」化している。などである。

 官僚たちが第二の人生を優雅に暮らすために、国の仕事を公益法人化して天下り先を作り、そこに多額の税金を投入して、あるいは法外な手数料収入を得て、自分たちの高給を生み出しているのである。例えば特殊法人系の公益法人のように、特殊法人は赤字にして税金で補填し、黒字の公益法人で自らの懐を潤すという悪質な例もあるが、情報公開されていないために、実態が国民の目に触れることは少ない。マスメディアが公益法人問題を体系的に取り上げてこなかったのは怠慢といえるが、一方で本書出版は、オンライン・ジャーナリズム『殴り込む』の大きな成果である。

 筆者は、「処方箋は、弊害が大きく根深いだけに劇薬型にならざるを得ない。根本的な処方箋は、次のようなエキスを盛るべきだ」として、以下の点をあげている。
  1. 主務官庁制を廃止し、内閣府に「チャリティ委員会」(仮)のような公益法人の設立審査、認定、登録と指揮監督を一元的に行う第三者機関を設置する。
  2. 公益性の定義、基準を新たな法律で明記する。
  3. 公益性の判断やその税制優遇措置などはNPOと同一基準とする。
  4. 公益事業として適当でないと判断された公益法人は、営利法人化、独立行政法人化、中間法人化、解散の四通りの対応を法に基づいてとらせる。
  5. インターネットなどによる情報公開を義務づける。

 公益法人の改革問題は前途遼遠でもあるが、小泉政権誕生で激動する政治の大きなテーマの一つであることは間違いない。まさに時宜を得た一冊といえよう。


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