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矢野直明
『サイバーリテラシー―IT社会と「個」の挑戦』
日本評論社■本体価格1400円
 副題に「IT社会と『個』の挑戦」とあるように、まさに時代の節目に当たったと思われる紀元2000年の出来事を通して、これからのインターネット社会がこうむる構造変化、そこでは組織よりも個人の比重が高まることを考察したもの。表題の「サイバーリテラシー」は、著者が先の『インターネット術語集』で提唱した考えで、本書は一つの「サイバーリテラシーの教科書」として構想された。



 ケータイの爆発的普及とインターネットのブロードバンド化、個人同士が直接コミュニケーションできることを可能にしたピア・ツー・ピア接続の衝撃、個人情報保護法と現代におけるプライバシーの危機、ICANNをめぐるグローバルな直接選挙、苦悩する出版業界とブックオフ、BSデジタル放送ではじまった多メディア時代など、「激変するサイバースペース」と「揺れる現実世界」の諸問題が取り上げられている。

 五部構成で、PART1 解き放たれた「個」を取り巻く環境、PART2 膨張するサイバースペースとインターネット発達史、PART3 メディアとしてのインターネット、PART4 サイバースペースとメディア、PART5 「ニッポン・イントラネット」の試練。PART4では、インターネットが既存マスメディアに与える影響やメディア・ビッグバン下の現状を一瞥しながら、これからの「表現の自由」は、既存マスメディアの再構築、ジャーナリストの新たなネットワーク化、個人の自覚などを通じて実現されるだろうといった著者のメディア論が展開されている。

 PART5の「ニッポン・イントラネット」というのは、日本全体を大きなイントラネットと考えた場合の一つの比喩で、世界同時に進んでいるIT革命を日本もまた担っていくためには、「情報公開精神の欠如」、「創造的破壊の欠如」、「理念・ビジョンの欠如」、「公共倫理の欠如」といった問題を克服すべきではないか、といった考えが述べられている。

 全体的なバックグラウンドを理解できるように、PART2と同3で、インターネット発達史、サイバースペースにおける時間と空間の変容、メディアとしてのインターネットなどについて一般的に解説している。


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